沢英人の川柳鑑賞   

                         川柳東浦の会合同句集第5集
                     ち た の 風

                各作家の最初の5句より1句を選んで鑑賞しています

 
 鍵持って
   四人それぞれ 
  出かけます 
           愛 
 一つでよかった玄関の鍵が四ついるようになった。
これは四人が自立したことである。作者はこれを喜
んでいるのか悲しんでいるのか、複雑な気持ちも
みえる。
 
 歩きだす
   川の流れより
   ゆっくりと   
          靖一
 人間一点にとどまっているつもりでいると、腐った
り後退してしまう。前を見つめて歩き続けねばならな
い。しかし急ぐ必要はない。急いではいけない。ゆっ
くりと歩き続ければよい。

 西暦二千年が
    どうしたって
   秋の天
          和子
 「二千年、二千年」と騒ぎなさんな・・・・、秋の空は
広いですよと・・・・、作者は理性的である。某男性
作家の今年の句に「切りのよい年で良いことあるだ
ろう」というのがあったが、これには何の理性も理屈
もなく、ただの願望である。これだけの差があって
は男は負けるわけだ。
 
    雨音に
 予定ふたあつほど
     消えて
          白紅  
 どんな予定でも、なくなってしまうとなにか空しい気
分になる。特に雨でなくなるような予定の時は残念で
ある。このあと、作者はどうされたのであろうか。
川柳作家はこんな時にも戸惑わないのである。
 
 決心が
 つかないうちに
    背を押され
         美保子
 本人が決心をし、行動に移すのが一番良いのだ
が、本人の決心を待っていては時機を失ってしまう。
押してくれる人がいることを喜ぼう。

 同心円
   はずれたあとの
     孤独感
          昌利
 個性化を求める時代と言いながら、実は昔より
画一化しているのが現代である。これは現代を
観察した句であり、作者は「同心円 はずれた
ところにある楽しさ」を知っている人である。

   好きになる
 前は普通の
     桜の木
         八重子
 好きになったり、興味を持ったりすると、何でもな
かったものが全く別のものに見みえてくる。昨年と同
じ桜の花が今年は更に美しくみえることであろう。

 鍋磨くときは
    なにも
       考えぬ
         幸智子
 人は常にいろいろなことに頭を巡らしている。そん
な中で単純なことに一心不乱になると気が休まる。
いつもそうであれば家庭は穏やか、台所も綺麗に
なるのだが・・・・

 選択肢
 どちらも外れの
       可能性
         千津子
 人は日に何回となく選択をして生活している。選ぶ
ときはいつも不安であり、全部だめではないかと弱
気になったりする。作者は正直であるが、不要な
不安である。

   他人という
   水が集まり
   川となり
          和尾
 川柳東浦の会のことを読んだ句。チョロチョロとし
た流れから始まり、今はどの程度になったであろう
か。元にチョロチョロとした流れでもよい。途切れな
いように流れていれば、それが大きな力になってい
ることもある。