zu124
  義 弟 の 死 ( 続 編 )


 
 平成31年2月16日、義弟は車の運転中に意識を失い、急逝した。69歳という今の時代では若い死である。そして前回の随想で3月17日に行った忌明け法要までを綴った。その後を綴り、記録としておきたい。

 6月には檀那寺に永代供養料を奉納し、6月25日にはお墓へ納骨、同日仏壇の性根抜きもしてもらう。もうこの家は利用することもなくなり空き家同然になったので、水道、電気も止めてもらうよう連絡をする。また石材店へお墓への記銘もお願いした。

 そして、7月に入って家屋売却の準備に入る。高校の同級生に不動産の仕事をしている人がいるので、彼(以下Kという)に正式にお願いする。まず名義書換である。戸籍等の関係書類は、他の手続きですでに手に入れていたので、それを渡す。ところがK君から不足分があるので、もう少し書類を貰ってきて欲しいという連絡がきた。そこで、再び役所に出かけて説明し、その書類を探して貰う。ところが、渡された書類には全く知らなかったとんでもないことが書かれていた。父母には共に離婚歴があり、父には1人の男の子もあったのである。妻始め妹らも全く初めて知ることである。叔父叔母などからも聞いたことがない。隠し子があったと言う話も時折聞くが、それは特別の人のことであり、また小説の世界のことと思っていた。まさか自分達にそんな話があるとは、びっくりである。このことを妻らはどんな気持ちで聞いたか、全くショックであったろう。父や母が亡くなったときになぜ分からなかったか。家土地などの不動産は、父母から遺産相続したものでなく、義弟自身が購入したものである。その他遺産相続申請をするような財産もなく、そこまでの戸籍書類を取得する機会が今まで全くなかったのである。今回も種々の手続きをしてきたが、そこまで問われることはなかった。
 離婚はまだしも、子があることは大問題である。妻らが生まれる前に養子に出され、すでに戸籍を離れていて知らなかったのである。今回相続権があるのは兄弟姉妹である。すでに養子に出されていても、異母兄弟であっても、兄弟であることに違いない。相続権があることになる。養子先の住所は福井県である。福井県まで行き男性(以下Bという)の所在を調べるのか。不動産の相続はあきらめ、そのままにしておくのか。その場合、家は壊せば終わりだが、土地はいつまでも義弟名義のまま残る。税金の督促もあろう。厄介な問題が残る。また探し出したら、人柄によってはかなり厄介なことになるかも知れない。本人が亡くなり、子供になれば更に厄介なこともあり得る。今までの遺産分割協議書は白紙になるかも知れない。それだけの恐れを抱えながら福井県まで調べに行く気にはならない。K君から「職権で調べてみよう」という提案があった。この先のことは、ある程度分かってから判断しよう、と言うことにする。

 そして、10月に入ってK君から「分かった」という連絡がきた。本人が名古屋市に在住という。名古屋という近いところに在住というなら、もう会うが賢明であろう。それが本来であるのだからもう何を迷うこともない。妻は早速手紙を出す。その手紙にKさんはかなり疑心暗鬼になられたようである。その後電話でやりとりし、11月17日にBさんの最寄り駅の喫茶店で会うことにする。こちらは夫婦で出かけたが、Bさんの方も夫婦でみえた。お互いどんな気持ちで臨んだことであろうか。多分どんな人か、不安いっぱいであったろうと思う。こちらの状況を理解してもらえるよう、2時間近く過ごす。そして不安はなくなったようである。更に分かったことは、Bさんは一人っ子で、兄妹はないと思ってみえたことである。そして、兄弟があったことを非常に喜んでもらえた。相続の話もする。多少のお礼金で、相続放棄も了解してもらえた。11月24日は書類を持って出かける。Bさんからは戸籍などの書類を頂き、財産放棄文書に印鑑も押してもらった。良い人で全く助かった。その後も時折電話や手紙のやりとりが続いている。コロナ騒動が収まれば、いずれ2人の妹らも会うことになるのだろう。
 こうして関係書類が整い、12月1日には土地家屋の名義書換は終わった。今年の4月27日には隣接の人との境界立ち会いもして、土地の測量も終わった。後は買い手を待つばかりである。このコロナ禍である。なかなか相手は見つからない。まあまあの条件のところであるので、いずれ売れるだろう。もうそれを待つばかりである。


 義弟の急死からいろいろな体験をし、考えさせられた。まずこの急死のように、死後の準備がされていないときは全く大変である。今回は妻の実家とは言え、今は住んでいない家である。義弟の生活状態もよくは分からない。最近は終活、終活と騒がれるので、それなりの準備をされる人は多くなっていると思う。しかし、その時になると、考えていた以上に大変である。葬儀の仕方、呼ぶ人のこと、まずここから問題になる。最近は簡単にと言うことで、家族葬が多くなっているが、私はかなり問題があると思っている。そして各種手続きである。いろいろデジタル化が進められている。他人に分からないようにしてあるだけに、簡単には理解できないだろうし、そこにたどり着けないだろう。遺産相続については家族関係の複雑な人が一番もめるようである。義弟の場合もあわやであった。不動産のある人も大変なようである。不動産は簡単に分けられない。売るに売れない場合もある。最近は相続を話題にしている雑誌も多い。よく調べ、残された人のためによほどの準備をしておく必要がある。

 この機会にわが家の場合を少し考えてみたい。妻が先に亡くなった場合は、相続についてはそんなに問題はなかろう。不動産は私名義であり、世帯主でないので妻名義なっているものは少なく各種の手続きもそれ程問題はなかろう。問題は、残された私のその後の生活である。これは重大問題であり、妻が先と言うことは絶対にあってはならないことである。
 私が先に亡くなった場合である。妻はこれを非常に心配している。まず葬儀については一般葬にして欲しいといっているので、今まで父母にやってきた方法である。葬儀屋さんが指導してくれるし、問題は誰に声を掛ければいいかであろう。これは主要な人を分かるようにしておけねば済むことである。私の相続人は妻と娘2人とはっきりしている。私は遺言書を、パソコン書きながらもう随分前に書いておいた。義弟の死をきっかけにもう1度見直してみた。そしてかなり修正した。私の意図するところは分かるようにしたつもりである。これは法的には価値がないだろうが、妻もいるから大丈夫だろう。もしそんなことを言う子供だったら、どうしておいても無駄だろう。私はかなりインターネットを活用しているし、デジタル化も進んでいる。一応、パスワードをなども記した一覧表を作成している。妻には無理でも、子供らにはある程度理解できるだろう。こう見てみれば、私がしておかねばならないことはもうそんなに多くはなさそうだ。
 今世の中、デジタル化に向けてまっしぐらである。わが家でも電気使用量は紙で通知が来ない。銀行の通帳も廃止されようとしている。妻に廃止は止めてくれと言われて、通帳はそのままにしている。本人がいて、順当なときは便利ではあるが、このように亡くなったとき、見落としなく変更手続きができるだろうか。パソコンやスマホの箱だけあって中身がもので残されていないだけに、かなり困難がある気がする。


 今年金婚式を迎えた夫婦である。いつどうなってもおかしくない年齢である。上記のように書いてみたが、どちらが亡くなってもその後は大変だ。死後のことがいろいろ片付いたとしても、その後の生活はどうなるのだろう。妻の一番の問題は家屋敷の管理であろうか。私の一番の問題は三度の食事であろう。それより寂しさに耐えられるだろうか。私が残ってやりたい気もするが、残念ながら男が先に死ぬのである。それが大方の世の常である。
                             (令和2年11月20日)


川柳&ウォーク