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癌奮戦記(その3)


 
 平成28年7月20日(水)、愛知県がんセンターへ退院後4回目の診察に行きました。手術をしてちょうど半年たちます。尿や血液検査の結果、がんについては何の問題もなく治療は完全に終わったようです。でも私には尿漏れや他の副作用もあり、これらが完治しないと終わった気持ちになれません。それはまだ目途がつきませんので、一連の治療に対する意識が深いうちに記録しておきたいと思います。
 最初に現在の状況について書いておきます。尿の全くの垂れ流し状態から改善が見られ始めたのは退院1ヶ月後くらいからです。2ヶ月後くらいから尿漏れ量が記録できるほどに減りました。日々の行動によって大きな違いがありますが、大雑把に言って1日の漏れ量は4月末で200cc強、5月末で150cc、6月末で100cc位です。7月末では50cc前後となりました。尿取りパットも1日1枚で済むようになりました。かなり楽になりましたが、パットが必要なくなるのはいつのことになるやら見当がつきません。
 それと困ったことに4月頃から手の強ばりやしびれ、左足アキレス腱当たりに痛みが生じるようになりました。医師が言われるのには、ホルモン療法の原因らしく、これも尿漏れと同じく時間が解決すると言われます。何も治療はありません。その言葉を信じているだけのこの頃です。


 こんな状況の中で、今までの感想を記していきます。
1)検査について
 65歳の時PSA検査を受け、その値が高いことから針生検を受けます。陰性でしたが、その後3ヶ月毎にPSA検査を受け、その値の変化を見ていくことになります。値は10〜12くらいであまり変化はなかったのですが、1回目の生検から5年たつというので、昨年6月に2回目の生検を受けました。そして、がんが見つかりました。こんな経緯をたどりますが、私には一つの疑問があります。最初にPSA検査を受けたのが58歳の時で、その時5でした。再検査を受けるように言われ4となりました。その時医師からは何の指示もなく、65歳まで何もしませんでした。私が今思うには3ヶ月毎に検査を受けるような指示があるべきではなかったかと言うことです。5や6でもがんが見つかる人があるのです。65歳で自主的に2度目のPSA検査を受けたのですが、その時は11になっていました。生検は陰性でしたので、結果から見ればこれでもよかったのですが、陽性になっていたら悔やまれたでしょう。
 2回目の生検でがんが見つかったのは12点の内の1点でした。たったの1点か、間違いかも知れないと思いました。もう1回やったら見つからないかも知れない、と冗談交じりに検査技師に言いました。技師は「24分の1になるだけですよ、見つかったのは運が良かったと思わなければいけませんよ」と言われてしまいました。確かに、よく見つけてくれたと思わなければいけないのでしょう。生検も抽出と言う検査です。このことも忘れてはいけないことでしょう。
 生検で採った細胞は病院を変わる度に取り寄せ調べられました。そしていずれも同じ結果でした。自分で確認しないと承知しないという慎重な態度が感じられます。


2)小線源療法からロボット全摘手術へ
 いろいろな情報を得て、放射線療法の小線源療法を希望し、愛知県がんセンターへ行きました。そしていろいろ検査する内に、小線源療法は無理と言うことになりました。前立腺が肥大しすぎているというのです。できないものは仕方がありません。放射線の外照射法は家族に拒否反応があり、私としても2ヶ月間の拘束は受け入れがたいところです。ロボット手術はがんセンターでは始まったばかりでしたが、これを選びました。

3)前立腺肥大
 前立腺が肥大していることは聞いていましたが、排尿にそれ程の問題や苦痛は感じていませんでした。検査され70ccくらいあることが分かり、小線源療法が無理と言われました。40ccまでくらいなら可能と言われます。前立腺の大きさは、普通にはクルミ大と言われ20cc程度です。これでは明らかに大きい。手術がしやすいように、ホルモン療法をして小さくすると言われ、2回皮下注射を受けます。手術前には50ccくらいになっていました。小線源療法が無理となったのも、ホルモン療法を受けたのも肥大していたからです。更に手術後のひどい尿漏れも、肥大によって膀胱が痛めつけられていたことに起因があるような医師の言葉です。今回のいろいろな不都合は肥大に尽きることになります。その替わり、時間がたてば膀胱が正常になり、以前より良い状態になるだろうと、希望を持たせるような医師の言葉もあります。前立腺肥大のことについてもっといろいろな知識や検討が必要だった気がします。

4)ロボット手術
 愛知県がんセンターに手術を支援するロボット、ダビンチが導入されたのは平成27年6月です。導入したばかりですから最新の機器です。実際に使用が始まったのは10月で、私はちょうど10例目に当たりました。ダビンチの特長は安全性ばかりでなく、出血量を極端に抑え、術後の痛みを軽減し、合併症リスクを大幅に回避できるなど、さまざまなメリットがうたわれています。私の場合、出血量は100cc程度と言われたし、手術の痛みは全くと言ってもいい程知らずに退院しました。すべてのメリットを享受できたと思っています。ただ尿漏れは最悪の方でしょうが、手術とは別問題だったと思うことにしましょう。
 2012年4月から前立腺ガンのロボット手術は保険が適用されるようになりました。私は10日間入院しました。この間の診療点数を見ると158522点で、内手術点数は106846点です。私は2割負担ですが、支払ったのは44400円です。個室に入りましたが、それを含めても15万円弱です。保険適用は本当に助かりました。今まで支払ってきた保険料を一気に取り戻した感じです。ちなみに、T病院で生検を受けて以来入院までに約13万円払っています。


5)他の治療法について
 尿漏れがこれほどひどくなかったら、無事終わったと喜ぶだけで終わったかも知れません。でもいろいろ考えてしまいます。
 例えば、ホルモン療法で前立腺は50cc程度まで小さくなりました。もう少し時間をかけて小さくし、小線源治療はできなかったのか。最初は小線源治療を希望しただけにそんな考えが浮かびます。そんな提案はありませんでした。それと少し迂闊だったのは、ホルモン療法については全く考えていなかったので、ほとんど知識がなかったことです。ロボット手術と決めた日にホルモン注射を受けました。2回だけと言うことで、副作用についても無頓着でした。今の状態に驚いています。
 PSA監視療法があります。前立腺ガンは進行が遅く、一生がんを持ったまま終わる人もあるようです。安易に手術をし過ぎという話もあります。私のがんは監視療法の規定から少し外れるようです。それでもあわてずにもう少しの間、見て行くという方法はあった気がします。「がんの見つかった今、何もせずにおくにはまだ若すぎる」と言われました。迷う私に妻は「不安はなくした方が良い」と手術を勧めます。検査をすると言うことは、見つかったら何か対策を取る気持ちがあるから検査をした訳です。何もする気がなかったら、検査などしなければいいのです。これは今では納得しています。監視療法を取って、不安な気持ちで過ごすのも大変です。針生検も嫌なものです。医師は私を若いと言いますが、70歳です。もう若いと言われる歳ではありません。もう少し待って治療をしようとした時、手術などもうできず、治療法は限られるかも知れません。治療は早いに越したことはありません。がんは早期発見早期治療です。
 そして分かったことは、手術は根本治療であり、最初の対応策であり、手術は健康でないとできないということです。転移していたらほとんど場合、手術は勧められないでしょう。心臓や血液に問題があったら、手術は躊躇されます。手術ができないときに他の手法を選ぶのが流れのようです。放射線治療を受けたら手術はできません。ホルモン療法は、ただ進行を押さえるだけで根本治療ではありません。数年内に効果がなくなる人も多いようです。そしてどんな療法も長短があり、障害が起こる場合もあると言うことです。
 手術ができても手術を避ける人は、尿漏れが嫌だからと言う人が多いようです。分かります。私も小線源療法にしようとしたのは、尿漏れを避けたかったからです。そして結果は最悪です。

6)尿漏れ
 手術に尿漏れがあるということは聞いていましたが、これは尿漏れとは言いません、垂れ流しです。漏れるというのはもっと少々のことです。想定外です。そして尿漏れも程度でしょうが、繊細な人にはかなりの苦痛でしょう。この状況であったら、ノイローゼになる人も自己嫌悪に陥る人もあるでしょう。最初の頃、家の中では屎尿瓶を持って動き、外へ出れば何回も尿取りパットを替えます。これが数ヶ月続きます。パットが1日1枚で済むようになったのは最近です。私は退院して4日目から会社に行きましたが、週2日であり、それもかなり自由にさせてもらっています。これがフルで拘束されていたら、休暇でしょう。インターネットで見た人は3ヶ月休暇を取っていました。私も焦りやストレスがない訳ではありません。でも今回のことで私の鈍感さがよく分かりました。鈍感も捨てたものではないのです。繊細な人を良く言いますが、繊細は良いことばかりではありません。時には過ごしにくいものです。最近、鈍感力といった本があった気がします。
 私の使っている尿取りパットには、450cc吸収できると書いてあります。寝ていれば可能かも知れませんが、動いていたら200ccが最大でしょう。重くて苦になります。それでも人間1時間60cc程度の尿量ですので、3時間くらい持ちます。これなら社会生活もできます。私にこのパットがなかったらどうなっていたのでしょう。良い社会に生きていると思います。
 尿漏れは手術をしてみなければ分からないようです。私の知り合いでほとんどなかった人もいます。1年以上苦労した人もいます。場合によってはこうなることも覚悟しなければなりません。ですから安易に手術を勧められません。でも、手術ができる人には手術を勧めると思います。

 
 思いつくままにここまで書いてきました。完治したとき、今回書き忘れたことやその後に思いついたことなどもう1回書くつもりです。尿漏れ記録もつけていますので、それも書きましょう。早く書ける日を祈るばかりです。
                              (平成28年8月20日) 

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