zu086   初めての手術体験

 入院といえば、46歳の時に椎間板ヘルニアで検査と静養で1週間、64歳の時に前立腺ガンの検査で2日間、そして今回の鼠径(そけい)ヘルニア手術で3日間である。よく入院している人にしたら入院の内にも入らないものばかりかも知れないが、私にしたら今回の入院は初めての手術と言うこともあって、貴重な体験であった。まずあまり聞かれることもないと思うので、鼠径ヘルニアを調べたことをもとに簡単に説明しておきます。

  
 鼠径ヘルニアとはよく脱腸と言われるものです。鼠径とは太もももしくは、足のつけねの部分のことをいい、ヘルニアとは体の組織が正しい位置からはみ出した状態をいいます。ですから鼠径ヘルニアとは、本来なら腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、多くの場合、鼠径部の筋膜の間から皮膚の下に出てくる下腹部の病気です。初期症状は、立った時とか腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかいはれができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。太ももや足のつけね(鼠径部)に何か出てくる感じがあり、それが腹の中から腸が脱出してくるので「脱腸」と呼ばれます。次第に小腸などの臓器が出てくるので不快感や痛みを伴ってきます。はれが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、腹が痛くなったり吐いたりします。これをヘルニアのカントン(嵌頓)といい、急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。
  

 症状は上記の説明の通りである。左もも付け根が何か腫れているなと気がついたのはもう10年以上前のことであろうか。その後少しずつ大きくなっていく気がする。前立腺ガンの検査時に聞いたら、ヘルニアと言われる。私の知り合いでヘルニアで七転八倒した人がある。いつかそうなるのか、気になってくる。そして昨年、ヘルニアの手術をした人を知った。調べてみて手術でしか治らないことも知った。人の命など明日も知れないと言うが、それでも普通であればまだ数年では死ねそうもない。時によっては20年も、それ以上もありうる。その間不安を持って過ごすのはたまらない。無くせる不安なら一つでも無くしておくのが得策であろう。そんな思いで、昨年11月に思い切って一宮市内のD病院で診察を受けた。まだ手術を要する段階ではない。「3日から5日ばかりの入院で済むので、気になるならやられた方が良いでしょう」という程度の回答である。「手術をされるなら入院される予定の1ヶ月位前に検査を受けに来て下さい」と言われる。積極的な勧め方ではない。それだけに迷う。必要も無いのに体に傷つけることもないし、痛い目もしたくない。今のところ何の苦痛も差し障りもない。場所が場所だけに気もひける。一応迷ってみるが、迷ってみただけである。危急な場合に至って右往左往するのはたまらない。不安な気持ちがあるなら早めに除いておこう、積極的に行こう(この場合にこの言葉が相応しいか疑問であるが)。自分の都合を考えて、入院は平成25年の2月最後の週としよう。
 そう決めて、1月19日に診察を受けに行く。検査用の血液を7本も採られた。肺のレントゲン検査や心電図検査も行われた。そして、入院日、手術日を2月28日に予約してくる。 

 2月28日午前10時、妻を伴ってD病院へ行く。個室をお願いしておいたが、満室で2人部屋であった。昼前から点滴が始まる。昼食は抜きである。2時過ぎに手術着に着替える。2時半、手術室に入る。手術医師と麻酔師、そして4人ばかりの看護婦さんがいる。手術台に寝て、目の前に目隠しがされる。上手に手術着が剥がされていき、毛布らしきものが乗せられる。両腕は固定され、左腕で血圧測定が、右腕で点滴が続けられる。もう見えないから想像である。局部麻酔がされ、除毛もされる。患部の辺りがあちこちと押さえられる。治療する部分を探しているらしい。「痛くないですか」「気持ちは悪くないですか」と時折声をかけられる。いつ切られたのかもよく分からないまま、無事済んで、手術室を出たのは4時半近くになっていた。
 見えていないのでどのような手術がされたのか分からないが、医師の事前説明とインターネットで調べたことによると、おおよそ以下のようである。医師の説明書にはメッシュ使用テンジョンフリー法とあり、インターネットで次のような説明を見つけた。


     
 
テンジョンフリー法とは術後の“つっぱり”を完全になくすために、1990年代に米国で開発された方法です。欠損した筋肉や筋膜を糸で縫い合わせる従来法(バッシーニー法)に替わり、人工補強材の傘状の形状をしたプラグで脱出した腸を押し戻し、そのままヘルニアの穴にフタをするように入れ、さらにメッシュ状のシートを鼠径管の口や筋膜の弱い部分にあてがって補強します。(中略)その後体内に残したメッシュに線維芽組織(せんいか細胞)が成長、欠損部を硬く覆うようになります。術後の痛みやつっぱり感が少なく、術後1時間の安静でトイレに行ったり食事もできます。また、加齢によって筋肉や筋膜が弱くなっても補強材があるので再発を防ぎます(再発率は1〜5%程度)。局部麻酔で手術も短時間ですむため、日帰り手術または短期入院が可能です。「つっぱりがない」ことを英語でTension-Freeということから「テンション・フリー法」とも呼ばれています。」(「ヘルニア倶楽部」より)
      

 10年ほど前までは、ヘルニアの出口の筋膜や筋肉を糸でしばってふさぐ方法で、術後の痛みが強く、術後1週間程度の入院が必要のようでした。そして、縫えば抜糸があるものと思っていたが、今ではこれもありません。数ヶ月かけて体内に吸収され、自然に溶けるようです。
 そして、病室に戻った。1時間も経てば点滴をつけたままトイレに行くこともできた。手術が無事に終わったことを見届けて妻は帰った。午後8時頃には点滴も終わったので、早々に寝付いた。麻酔が切れた時の痛さを心配したが、それ程のこともなく朝を迎えた。
 6時過ぎには起き、コーヒーを入れ、テレビを見ながら朝食を待つ。8時頃に朝食が届く。その後ベットの上で本を読んだりテレビを見たりして過ごす。10時頃には回診があった。特に問題もなさそうなので「それなら明日10時頃退院します」と告げた。まだ入院が苦痛と言う程のことはないが、何か楽しみでもあれば別だが、1時間でも早く出たい気持ちです。その後、退院後の説明を受け、退院の手続きをした。翌日妻に迎えに来てもらって10時前に病院を出た。ちょうど48時間、丸2日間の入院でした。


 
10cm程切った傷口はまだ痛むので行動は慎重にしていた。3月6日に診察を受けに行くと「少し水が溜まっているが、自然になくなっていくでしょう。水を抜くこともできるがしない方がいいでしょう」ということで、テープを貼り替えるだけで終わりです。予約してある時間に行って、2時間待って5分程の診察にはいささかうんざりです。16日に再度診察に行った。水も抜けており、傷口はまだ少し痛むが、これですべて終わりました。
 こんな程度の入院、手術で一つ不安が消え安心して過ごせれば、やって良かったと言えるでしょう。今後どんな病と闘うことになるか分からないが、今回の体験が少しは役立つだろうか。あまりに簡単で参考にもならない気もする。最後に川柳連れ連れ草の第135号(平成25年3月号)にこの体験を句にして掲載したので、それも紹介しておきます。随想や句を作る為の体験だったのか、ともいわれそうである。


      少しずつ成長続ける僕のこぶ
         ヘルニアと聞き覚えのある答
           脱腸と日本語で言えばいいものを
 加齢と言われ納得は半ばほど
  診察を受けて迷うことが増え
   苦しんだ知人がいて恐れ来る
    死ねるとはまだ思えないこの体
             減らせる不安は減らすそれも善
             手術した知人がいてその気になる
             手術日を早々に決め気は楽に
             入院の手続き済ませ後は祭り
          点滴に腕を取られて病人顔
         覚悟なく不安もなくて手術室
       麻酔され目隠しされて手術台
      痛くもなく辛くもなくて手術終え
                その次の恐れは麻酔切れた時
                経過良し三日で退院願い出る
         入院し手術をして話題増え
          一つ不安減らして向かう明日あさって
            春迎え内側外側整えて

                           (平成25年4月20日) 
 


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