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川柳で綴る出羽三山の旅

 今の我が夫婦にとって旅行は最高の楽しみであり贅沢の一つである。車の運転が苦手な私には旅行社の企画する旅行に参加するのが手っとり早い方法である。それに自分で行くよりかなりお値打ちでもあるのだ。
         
還暦後旅行の魅力増していく
          
体力があるうちに行くツアー旅行
 団体行動であるのでそれを乱さない程度の体力が必要である。その体力もいつ途絶えるかもしれない。数週間前に見た元気な人が突然動けなくなる例を身近に見ることが多くなった今、行けるときに行っておこうとこの数年、機会を見つけて出かけてきた。
         
四十九日忌終え許される小旅行
           
 未知の地の魅力に引かれ選ぶ旅
         
出羽三山知識はないが夢を持つ
 いや体力ばかりではない。家庭の事情も作用する。今年の4月頃から義母の健康状態が急に悪くなってきて、旅行も中断を余儀なくされた。そして、8月6日に亡くなり、9月23日に四十九日忌の法要も終えた。慰労の意味も含めて10月4日からの1泊2日の小旅行を選んだ。行き先は一度行ってみたいと思っていた出羽三山である。

         
目覚ましの音より早い旅の朝
            
満席のバスに知人の顔がない
 中部国際空港集合が午前7時という早い時間である。5時半に家を出る。いわて花巻空港に着いたのはまだ9時である。参加者は42名でバスは満席である。もちろん見知らぬ人ばかりである。1日目の座席は一番前で、視界は広いし、車内から写真も撮りやすいのでありがたい。



 自動車道に入り、まずめざしたのは湯殿山である。途中2度ばかりのトイレ休憩で、昼食は車中の強行軍である。

        
湯殿山巨大な鳥居にまず負ける
            
神域にカメラ撮影できぬまま
     
 撮したいものが撮せぬ消化不良
          
靴下を脱いで高まる好奇心
              
ご神体を踏みつけ足が温かい
                 
願う事ありて巨石に手を合わす
 10時近くに湯殿山神社前に到着する。赤い大鳥居に圧倒される。ここから専用のマイクロバスに乗り換え、5分ばかりで本宮入り口である。少しのアップダウンの坂道を歩いて御祓い所に着く。参詣するためにここで素足になる。御祓い所でお守りと小さい紙の人形(ひとがた)を受け取り、御祓いを受ける。そして人形で頭のてっぺんから順次下へ足までなでる。我が身の穢れを人形に移すということである。そして、息を吹きかけ、近くの水面に流す。それから本宮参拝である。といっても本殿も拝殿もない。巨大な茶褐色の巌がせせり立ち、その頂部から湯が流れ落ちている。これがご神体という。その前で拝み、更にその巌の側面を上って巌の上に立つ。足を浸すお湯が熱いくらいに温かい。頂部から見下ろす梵字川と紅葉の始まった山々が森厳な感じにさせる。そして、足湯にしばしつかり御祓い所を出る。好天に恵まれ、この深淵に身を浸し、もっとゆっくりしたいところであるが、それが許されないのが団体旅行の辛さである。
 本宮入り口から奥はカメラ撮影禁止になっており、興味のある被写体がたくさんあったが残念である。そして「ここで見聞きしたことは他人に語ってはならない」といわれているようで、こうして書いてはご利益はなくなってしまうのだろうか。12年に一度の丑年に参詣すれば12回お参りしたことと同じとされるという。今年はその丑年であり「丑年御縁年」といって、大変ご利益がある年であるそうだ。八百万のものを神様にしてしまうことも含め、日本人の発想の豊かさ、面白さを思う。



          紅葉に目を奪われた蔵王山
         
お釜見て新婚旅行思い出す
            
迂闊にも結婚記念日忘れてる
          
迂闊さが嬉しさに変わるその一瞬 
 次にバスは蔵王山に向かった。山形市側から蔵王エコーラインに入る。上がって行くにつれて紅葉が深まってくる。実に素晴らしい。そして、山頂に近くなるとその紅葉も遅いくらいになる。
 駐車場から蔵王のお釜は近い。夕方近くになり寒いくらいである。そしてここを歩いていて、今日が何の日か、急に意識に上ったのである。妻が知らないはずはなかろう。でも何も触れなかった。私も気づいていると思っていたのだろうか。何としたことか、今日は結婚記念日なのだ。そして蔵王は新婚旅行できたところなのだ。お釜を見て新婚旅行以来だなと思ったのが、気づくきっかけになった。迂闊ではあったが、記念の旅行となり、来た意味が深まったと思った。
食卓に他人ばかりで興味湧く
一日をふり返ってみる露天風呂
 辺りを見学してバスに乗る。バスは宮城側に下りる。上りも下りもバスガイドさんは渋滞を心配していたが、我々の時間が少し遅かったこともあって渋滞はその前に終わっていた。ホテルは遠刈田温泉のロイヤルホテルである。大きなホテルである。




           月山をめざしてバスは蛇行する
              
バスまでが難行苦行する月山
                 
一望の庄内平野にまず見とれ
             
木道に我が行き先を導かれ
                 
一面の枯れ穂に気持ち安らぐ時
               
ただ眺め気持ち広々弥陀ヶ原
             
うさぎ像行きかう人を守りつつ
 翌日はまず月山である。山形自動車道の山形ジャンクションから月山インターチェンジ間はもう3回目を通る。2日目の天気は予報から半ばあきらめていた。しかし、雨雲は夜中の内に通り抜け、次第に晴れ間が広がっていた。おかげで自動車道から3回とも月山の全容を見ることができた。
 月山へ上る道は狭い。車がすれ違えない箇所も多い。運転手さんが切り返しをしなければならないヘアピンカーブもある。うまくすり抜けて乗客から思わず拍手が起こった。駐車場は8合目である。ここに広がる弥陀ヶ原を散策するのである。下を見れば庄内平野が一望である。鳥海山も雲間から山頂を見せている。弥陀ヶ原は所々灌木が生えているが、一面湿原植物に覆われている。湿原植物は今はほとんどが枯れ、赤い実だけを残したナナカマドが目につく。遊歩道は木道や踏み石で作られている。渡された地図に従って、1周2kmばかりを45分ほどかけて歩く。途中中の宮という神社があり、そこに大きなうさぎの石像が祀られていた。神の使いである。社務所で聞けば「うさぎ年に開山したから」という返事である。またホームページのネタが見つかった。気候といい、見晴らしといい、実によい。月山山頂もよく見え、こんな日は年に数えるほどであるという。ここも時間が許せばもっとゆっくりしたいところである。




                  五重塔見上げて気持ち萎縮する
             
体力と時間を買う自動車道
               
階段を避けて魅力は半減し
                   
幾人もの芭蕉がいる奧の道

 次は羽黒山へ向かう。途中の宿坊で精進料理の昼食である。出羽神社はまず五重塔の見学である。白木造りで、5つの屋根の大きさが皆同じというのが特徴という。少し離れて見ると上の方がやはり小さく見え、真下に来て見上げて同じ大きさと知る。聞いていて初めて分かることである。しかし、圧倒されてしまう。ここから本殿までは2400段の階段であるという。我々はバスに乗り、有料道路を通って本殿へ向かう。愛知県の鳳来寺山と同じであるが、鳳来寺山の階段は1400段である。私は有料道路ができて味が無くなったと批判的であったが、道路ができたことによって始めてこられる人もある。2400段ともなると、かなり丈夫な足と時間が必要である。
 出羽三山の神社は湯殿山神社、月山神社、出羽神社の3社をまとめて出羽三山神社という。羽黒山に三神合祭殿という立派な本殿がある。近くに松尾芭蕉の像も立っている。東北地方を回ると至る所で松尾芭蕉像に出会う。全国でいったい何体の像があるのであろうか、興味がわく。




 仙台空港午後7時55分発中部交際空港行きに乗り、自宅に帰り着いたのは10時半である。1泊2日の小旅行ながらたっぷり2日間を使い、見所もいっぱい、充実した2日間であった。何より2日間とも好天であったことは良かった。短くとも思い出深い旅行になった。
              
好天を贈られうれし記念日
                  
行って良し語って良し出羽三山
                                         (平成21年10月24日)


川柳&ウォーク