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川柳で綴る 道 東 の 旅
平成20年5月中旬、妻とK旅行社の「道東の旅2泊3日」のツァーに参加する。北海道へは2、3度来ているが、根室や知床は初めてである。 天気予報では3日目が少し危うい予報、ただし、気温は最低が4度、最高が16度という、名古屋地方とは大違いのかなり低い予報である。 中部国際空港から2時間弱の飛行で釧路空港へ、到着したのは午後1時半である。参加者は21名、すぐにバスに乗り、釧路湿原を通り、霧多布岬へ向かう。 道東へ来たと身が知る温度の差 GPSとデジカメ使う旅始め 先月、「GPS-CS1K」という製品を買った。数度使っているが、なかなかの優れものである。GPSで自身の現在位置と日時が記録され、パソコンに移すと行動軌跡が地図上に表示される。どこの道を通ったのか、ほぼ正確に分かる。この器具のもう一つの使い方は、デジカメで写真を撮った位置を地図上に表示させることである。デジカメにも時計機能があり、お互いの時刻を照合させれば、これが可能である。知らないところへ出かけて、どこで写真を撮ったのか後に分からなくなる、という不都合が解消されるのである。全く器具に翻弄されるような世の中であるが、14,000円程度のものでこんなことができるとは驚きである。 釧路湿原を通ると、広大な風景に北海道へ来たことを実感する。旅行募集案内には「まだ見ぬ風景を探しに・・・日本離れした風景を巡る」とある。まさに本州では味わえない異国の雰囲気である。 |
釧路湿原・釧路川(釧路港方面を見る) |
丹 頂 鶴 |
誰もかも展望台にあこがれる 片眼が崩れ窓岩見えにくい 湿原を余裕もって川蛇行する 厚岸湖を車窓から眺め、琵琶瀬展望台に来る。前に太平洋が、彼方に平成6年10月の東方沖地震で崩れた窓岩が見える。この地方は日本有数の地震多発地域なのだ。後ろには広大な霧多布湿原が一望である。霧多布湿原には川が悠々と蛇行しながら流れている。 そして、霧多布岬である。着いた時、まさにその名のごとく霧で覆われ、断崖の景色も全く見えない。海から霧が流れ込む。霧のない時に来るのはなかなか難しいようだ。霧は晴れそうもないので、あきらめてバスに乗りホテルに向かう。 |
太平洋・窓岩 |
霧多布湿原 |
一瞬に霧かかり虚無となる 霧多布 霧に包まれ謎のまま 根室のホテルに着いたのは、5時半である。天皇陛下も宿泊されたホテルのようであるが、大浴場もなくいささか寂しい。夕食には花咲蟹がついていた。 昨年の9月頃から旅の記念に、宿泊したホテルに宿帳の記載をお願いしている。今夜の宿では “根室の名物 数々あれど カニの花咲・車石 岬ノサップ 向こうに千島 なぜに渡せぬ夢の島” と書いてあった。良い記念である。 散歩して朝食前の気分良し 満開の千島桜に夢刻む 偉人像見つけて嬉し根室の町 こうして旅行に出たとき、朝食前にホテル付近を散歩することにしている。6時前にホテルを出る。道路にある気温表示は4.8度を示している。根室市役所やときわ台公園を見ながら清隆寺に来る。千島桜を見るためである。まさに満開である。この時期に満開の桜が見られるとは思ってもいなかった。遠くに弁天島などを見ながら根室公園に来る。案内地図に「小池翁の像」と示されていた。ホームページに「街角の偉人」というページを設けているので、こうした像があれば可能な限り寄るようにしている。1時間15分ほどの散歩であったが、体が冷え切ってしまった。 |
清隆寺の千島桜 |
根室公園・小池翁之像 |
厳寒に返還の文字かすれる地 納沙布の先に怨念横たわる オホーツクの海に寂しい歌聞こえ ホテルを8時20分に出発し、納沙布岬を目指す。日本本土の最東端である。根室の町もそうであったが、この岬に来ると北方領土返還の看板類を至る所に見かける。その領土はこの岬から目の前に見える。貝殻島に至っては3.5kmである。巨大なモニュメント・四島のかけ橋や望郷の家・北方館がある。ソビエトに領土を奪われたのは日本が降伏した8月15日以降であることを知る。空模様と同じく重苦しい気持ちになる。冷えた体も気持ちも鉄砲汁の試食で温める。こんな試食も旅の楽しさである。 |
望郷の岬公園・四島のかけ橋 |
水鳥がいて絵になる風蓮湖 目に見えぬ格闘がある干潟です トドマツの命縮めた海の水 トドワラに見る人生の終末図 半島を一周するような形で引き返し、北上を始める。風蓮湖で休憩となる。周囲96kmのラムサール条約の指定地である。一面の干潟に水鳥の遊ぶ姿が見える。 そして野付半島である。トドワラの見学である。トドワラとは砂嘴の上に生えたトドマツ林が、地形の変化で海水におかされ枯木群に変化したものである。大正池を思い起こせばいい。バスを降りて20分ほど、半島の先端方向に歩く。枯木がもっと林立しているかと思ったが、大半はその枯木がさらに崩れ、小さな木片となっている。何か人骨が散らばっている感じである。人類の終末さえ想定させる殺伐とした風景である。 |
トドワラ |
残雪に余命数える旅愛し 青空に残雪映えて羅臼岳 群生に足ゆるやかに水芭蕉 標津(しべつ)で昼食、知床峠を目指す。上って行くに従って何と残雪である。沢山の雪が残っている。危険なためまだ通行は昼間に限られているという。峠近くまで来ると、朝方から見てきた曇り空が、あっという間に青空に変わる。知床富士といわれる羅臼(らうす)岳が見事な容姿を現す。歓喜の一瞬である。峠で下車する。爽快な時間である。 そして、知床五湖巡りである。ただし熊が出るということで5湖のうち2湖しか立ち入れない。40分ばかりかけこの2湖の周りを散策する。どこからも知床山脈が目の前に展開する。この風景を知らずに帰ってもそれまでだが、知ったからには本当に良かったと思う。至る所に水芭蕉の群生である。その中をエゾシカが何頭となく歩き回っている。これが他では見られない北海道の自然である。 バス止めて丹頂鶴は演技する キタキツネカメラ無視して睦みあう エゾシカの後をゆっくり走るバス この日1日で丹頂鶴もキタキツネも見た。エゾシカの親子が道路の中央を堂々と歩いており、しばらくバスがその後をゆっくり走るときもあった。「後は熊だけですね、よく探してください」とバスガイド嬢が皆を笑わせていた。 今夜はウトロ泊である。大浴場があった。それも温泉である。 |
羅臼岳 |
知床五湖・水芭蕉 |
エゾシカ |
キタキツネ |
最後の日である。知床八景の一つ、オシンコシンの滝を車窓から眺め、バスはオホーツクの海から離れ、東釧路駅へ急ぐ。その間に展開した広々とした大地もまさに北海道の風景である。テンサイ、馬鈴薯、小麦等々、これだけ広い農地にどうやって植え付けたのかと素朴な疑問が生じる。 東釧路駅から「くしろ湿原ノロッコ号」に乗る。ディーゼル機関車に乗って釧路湿原を見るのである。40分ばかりの乗車であるが、見所ポイントではまさにノロノロの観光列車である。しかし、これは少し期待はずれであった。湿原の端から低い位置で見ても湿原の広さはあまり感じられない。また目の前の雑木林が視界をさえぎっている。 感動はいくら撮っても撮りきれぬ アレルギーの孫の土産に苦労する その後の釧路空港に向かうバスの中の方が、よほど日本一の湿原の広さを感じられた。湿原の中をまっすぐな道路が走る。もうこれで見納めである。バスの中からでも盛んにカメラのシャッターを切る。 空港に着く頃から雨が降り出した。 いい旅行であった。こうして随想に書けるのもいい。今度は花が咲く7月頃に是非来ようと、妻と話した。料金は倍になるだろうが・・・・。 異国から帰った気分の三日間 旅終えて変わらぬものは夫婦仲 |
ノロッコ号 |
釧路湿原 |
(平成20年6月20日)