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つれあいにモノ申す

 説明するまでもないが、つれあい(連れ合い)とは夫婦の互いの相手方のことである。そして、夫婦とは社会の最小構成単位であり、家族の基本である。その夫婦は生まれも育ちも違う男と女が、ある時から実生活を共にするわけであるから、分かりあって一緒になっても、愛し愛されて一緒になっても、なかなか解け合うのは難しいものである。そんな夫婦の喜怒哀楽を中日新聞では「つれあいにモノ申す」と題して投稿文を募り、毎回6、7編を掲載している。平成19年11月7日付けの投稿文をきっかけに、私のホームページの「伝えたい話・残したい話」(以下「話・話」)に4回ばかり連続して話題とした。少し修正を加えながら紹介したい。(“ ”:引用文、【 】:コメント文)

  ●平成19年11月7日付け中日新聞(「話・話」第848話)
 “主人が亡くなって一年。一人で生きる覚悟をして、仕事を始め、寂しさと不安と格闘しながらも、人々の温情をかみしめながらの一年でした。
 ある日、久しぶりに中日新聞を隅々まで読みました。主人が晩年、生活面の「つれあいにモノ申す」を読んで、笑いながら、私にも「これ読んでみろ」と幾度となく言っていたことが思い出され、胸が締め付けられました。若いころは、何度も離婚したいと思うことがありながら、それを乗り越えてきました。お互いがお互いの必要性を十分に分かって、「お前なしでは」「あなたなしでは」と言いながら暮らすようになってからの別れはつらいものでしたが、主人のおかげで幸せな人生だったと思えます。
 「つれあいにモノ申す」の夫婦も、きついことは言っていても、本当は、きっといい夫婦なんだろうなあ、と想像しています。”
 【名古屋市の介護職員・野村さん(女・61)の投稿文からです。いろいろな夫婦があるものだ、とボクもいつもにやにやしながら読んでいる。そして思い当たることもいっぱいである。最近のものから数編を選んで次回から紹介してみます。】


  ●平成19年10月31日付け中日新聞(「話・話」第849話)
◎色紙の言葉
 “母が九十一歳で亡くなり、母への思いをひとことずつ書いた色紙を棺に入れることになった。主人の書いたひとこと。「いい娘さんを頂き幸せです。これからも仲よくします」に、しばし悲しみを忘れた。”(主婦65歳)
 【自分の母親に向かって「いい娘さんを頂き幸せです」と言ってもらえる、こんな嬉しいことはなかろう。母親への孝行にもなり、自分に直接言ってもらうより嬉しいのではなかろうか。この言葉、ボクもそのまま使える。】
◎心配しすぎ?
 “洗面所の鏡の前で私は白髪、あなたは薄毛にためいきをついていた時、「おまえもハゲればいいのになあ」とあなた。「何でよ!」と怒ったら「ハゲになれば、誰にも相手にされないから心配しなくて済む」だって。心配ご無用。あなた以外の人に全然モテませんから。いつまでも愛してくれてありがとう。これからもラブラブの夫婦でいようね。”(ぴーこママ38歳)
 【ごちそうさまと言うところです。日頃ぶつぶつと言い合っていても、何かの折りには嫉妬心を感じ、愛し愛されていることをお互い確認しあって夫婦は継続していく。愛情を言葉に出す、旧人類のボクには無理だ。】

  ●平成19年11月7日付け中日新聞(「話・話」第850話))
◎男心とは
 “奥さま方にぜひご理解いただきたいです。男は照れ屋さんが多く、奥さまの手料理がどんなにおいしくても「おいしい」「ありがとう」が照れくさくて、なかなか言えないのです。でも、みんな心の中では、奥さま方のご苦労に感謝しているのです。ぜひ、男心を知ってほしいです。”(無職76歳)
 【まさに旧人類の言葉だ。そして旧人類はこれでも成り立ってきた。しかし、新人類はこうはいかない、きちんと言葉に出していわないと本当にトラブルになってしまう。新人類の方が誤解がなくって良いから、旧人類も見習うべきであろうが、分かっていてもできないのが旧人類の旧人類たるところである。】
◎間接告白
 “先日、孫娘が遊びに来た。きれいな女子高生になって、祖父の私も鼻が高い。笑顔を私に向けて「おじいさん、幸せな人だね」と言うので理由を聞くと、ばあさんが「健康で働き者のおじいさんが好き」とのたまった、という。年がいもなく、胸が熱くなった。でもな、何でそんなこと孫に言うのか。じいに直接言わんかい。”(照れ屋のじい 61歳)
 【「色紙の言葉」のように間接に聞くのは、直接より効果は大である。しかし、間接ではうまく伝わるかどうか不確かである。この照れ屋のじいが直接言われたらどういう対応になるか、想像すると面白い。まあ、こういう出来事が時折あって、日頃の不満も解消しているのである。
 この「つれあいにモノ申す」では、ここに紹介したようなほほえましい話はどちらかというと少なく、辛辣な非難が多い。しかし、野村さんの言われるように「本当はきっといい夫婦なんだろう」と思う。これだけのことを公表しても平安は保たれると信頼しているわけだから。逆に言えば、言えない夫婦ほど問題かもしれない。】


  ●平成19年11月14日付け中日新聞(「話・話」第852話)
◎幸せのペアカップ
 “三十一回目の結婚記念日を迎えることができた。少々高価だったけれど、思い切ってペアカップをそろえた。白地に金ラインが気に人って、それを眺めながらていねいに洗っているだけでうれしくて、幸せな気分。おまけに「コーヒーが入ったぞー」の声が聞こえてきた。いつもおいしいコーヒーをありがとう。(ホットコーヒー 55歳)”
 【この文を読んでいて解釈に迷ってしまった。カップを洗う人とコーヒーを入れる人がどう読んでも違うのだ。ホットコーヒーさんは女性か、男性か・・・。多分で女性で、ホットコーヒーさんがカップを洗い、旦那さんがコーヒーを入れられるのだろう。多分、コーヒー豆をひいて・・・・。わが家にはほど遠い風景で、それで解釈に迷ったが良い夫婦だ。
 結婚記念日に何か記念のことをする、これも羨ましい。わが家などいつも過ぎてから気がつく。そして来年はと思いながら毎年同じことを繰り返している。】
◎分相応に
 “結婚して三十七年。あなたは馬車馬のように働いてくれ、家を建て、三人の子にそれなりに学歴をつけてくれました。感謝しています。定年を迎え、やさしくなったと思いきや、何と下請け会社の十七歳も若いグラマーバツイチ女性に夢中になりすぎて、嫌われた様子。ウッフッフ。分をわきまえて。あなたには、この古女房が一番よ。(37年しのぶちゃん 59歳)”
 【長寿命社会になって定年後をどうとらえるか、定年以前より難しい問題ともなる。そうして考えた結果、例えば、もう人生の義務は終わった、これからはもっと自由を謳歌しよう、となる。そしてとんでもない方向に走る。しのぶちゃんのご主人はあわやであった。古女房殿が寛大でよかった。定年後といえども今までの人生が下敷きとなる。その下敷きを考慮しながら、分相応に着実に歩むことが賢明ではなかろうか。】

 こんな話を綴っていたら11月22日は「いい夫婦の日」であることを次に紹介するコラム欄から知った。
  ●平成19年11月23日付け中日新聞(「話・話」第857話)
“「本当に好きだった」。まるで高校生の告白のようなひと言が妻に発せられのは、しかし、死の床だった▼先月亡くなった建築家の黒川記章さん。最後に言葉を交わした際に、そう言われたのだと妻の若尾文子さんが語っていた。連れあいにそう言い、また、言ってもらえる永別の時。悲痛な別れではあっても、夫妻の過ごした時間の実りの瞬間でもあっただろう。きのうは「いい夫婦の日」だった▼クリスマスのプレゼントのために、自慢の髪を売って夫の金時計にぴったりのプラチナの鎖を買う妻。そうと知らず、大事な金時計を売り妻の髪に似合うくしを買う夫。よく知られたオー・ヘンリー『賢者の贈り物』の夫婦である。理想の姿だけれど、現実、多くの夫婦は、そうまで麗しくない▼最近の生命保険会社のアンケート結果だと、平日の会話時間は三十分以下という夫婦が四割ほども。そう回答した人の三人に一人が「配偶者に愛情を感じていない」と。夫婦円満の秘訣は「話をよく聞く」が最多回答だったことを考え合わせると、ポイントは会話らしい。”
 【「中日春秋」というコラム欄からです。若尾文子さんのインタビューはボクもテレビで見た。著名人夫婦の場合すれ違いが多く、なかなか夫婦関係も難しいと思われるのに、この発言にはびっくりした。若尾さんが黒川さんをしっかり支えていたから出た言葉ではなかろうか。
 11月22日を「いい夫婦の日」とはまた分かりやすい語呂合わせである。こんな日に自分達夫婦を振り返ってみるのもよかろう。いや、そのために設定されたのであろう。さていい夫婦とは何か・・・夫婦の実態は外からは分からない。仲睦まじくみえた夫婦が突然離婚したり、よくアレで続いているなと思う夫婦が生涯を無事添い遂げる、身近にもよくあることである。当人同士がどう思っているのか・・・片方ではない、両人それぞれがである。それには会話をして確認しあっていくことである、それがコラム氏の結論のようである。男性が思っているほどに女性はいい夫婦と思っていないというデータもあり、男性の自己満足は要注意である。】


 健全な夫婦と健全な社会は車の両輪の気がする。片方が崩れればもう一方も崩れる。夫婦不和の家庭に健全な子の成長も難しい。離婚となればさらに難しい。考えれば考えるほどに夫婦が家族はもちろん、社会に及ぼす影響は大きい。思いやりや尊重があればほぼ十分だが、自己愛や欲望から逃れられない人間には難しいことである。しかし、それぞれの夫婦にあった手法を駆使しながら、不満を吐き出し、円満に過ごしていくのである。そういった意味でも「つれあいにモノ申す」は一つの役割を果たしているのである。さらに「話・話」やこの随想のテーマにもなってくれたし、いいシリーズものだ。

                            (平成19年12月30日)


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