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自宅改造・自己改造

 川柳連れ連れ草の今年5月の第65号、および7月の第67号に「英人の20句抄」として掲載した句を盛り込みながら文をしたためてみました。川柳の解説といったところでしょうか。文章を書きながらふさわしい句を作成、盛り込んだことは度々ありますが、先にあった25句もの句を盛り込みながら一つの文章にまとめたのは初めてのことです、いかがでしょうか。(平成19年8月24日)


 
 老母が老人施設に入所したことによって、老母が寝起きしていた部屋が空いてしまった。我が家で日当たり、風通しなど住み心地がもっとも良い部屋である。空けておくのももったいないと改造して自分たち夫婦で使うことにした。

        余命あり自宅改造に手をつける
        米寿を見据え身辺整える
         夢描く自宅改造自己改造

 人間の寿命は分からない。しかし先日発表された平成18年簡易生命表によると、平均寿命は男性79歳、女性にいたっては85.8歳となっている。60歳の平均余命は男性22.4歳、女性27.9歳である。ボクの場合、平均でもまだ約20年の命があるのである。自宅改造はなかなか大変であり、これから先ますます億劫になってくるので、最後のちょうどいい頃合いであろう。脳梗塞などの障害は想定せず、少し欲張って米寿まで、順調に老いていった時を想定して改造を考えることにした。いろいろな夢が描かれる。この機会に身辺整理もしたほうがいいだろう。行動も変わるであろうからついでに自己改造も図ろう。

        萎えた足思い描いてバリアフリー 
        世も家も段差なくして穏やかに

 我が家は母屋が昭和23年築造、そして今度改造する離れ(母屋と玄関でつながっている)は昭和45年築造という、かなり古い典型的な木造農家住宅である。母屋は昭和58年に大改造をしている。しかし、増築、改造で済ましてきているので段差がいたるところにある。その段差を少しでも減らし、またドアーは引き戸にするなどバリアフリー化し、老後に備える必要がある。

        耐震の工事するまだ惜しい命
        残ったのは柱と梁と思い出と

 我が地方は近々想定される東海地震、東南海地震の影響地である。市では無料耐震診断が行われている。空間の多い住宅だし、母屋にいたっては玉石基礎だし、診断を受けてもどうしようもないと思いながらも2年前に受けた。案の定、母屋0.32、離れ0.78という低い評点であった。我が家はすべて平屋造りであるので、根拠はないが数値ほどに心配してはいない。しかし昨年、母屋の方はいつも世話になっている同級生の大工さんに頼んで、不十分ながら耐震補強をした。そして今回、離れの改造をするに当たって、できるだけの耐震補強をしてもらうことにした。まだまだ惜しい命である。屋根の葺き替えもすることになり、柱と梁と少しの壁のみを残してほとんど取り払われ、再構築となった。そして開口部はだいぶ減らして壁構造とした。計算はされていないが、かなりの補強になったはずである。
 工事は5月のゴールデンウィーク明けから始まった。新築と違って、改造は見ていてもかなり面倒である。長年の間に木材は反り、傾く。それを直接修正することは難しいので、パッキン材を入れながら壁の垂直を図っていく。自然壁は厚くなる。使うのは自分達である。基本的なことは自分達で考え、細部や使う材料は大工さんと相談しながら決めていく。

        厚化粧終えてついの住みかです
        住み心地良好 早い帰宅時間

 途中2週間ばかり、大工さんが他の急ぐ仕事で来なかったり、また雨で進まなかったりしながらも、7月第2週には家具等を離れに移し、生活の拠点を変えた。できあがったのは居間兼書斎、ダイニングキッチン、そして玄関の改造である。ほぼ思い通りにできあがった。いや、想定以上に住み心地良好である。暑い夏がどうなるか気になっていたが、断熱材もしっかり入れてもらったので扇風機で事足りるようだし、夜などはどちら方向の風でも少しあればもう十分に涼しい。

        窓越しに見る月が目に新しい
        新しい部屋でかけてみるミュージック
         しばらくは自宅にとどまる好奇心

 今までは部屋から月を見たことなどほとんど覚えがない。しかし、窓越しに見える美しい月に驚く。全く新鮮な気分である。そしてあまり使っていなかったコンポも使いやすく配置できた。かけてみる。うっとりと心地よい。ミュージックも部屋の装いである。半月ほどで一応の整理、配置はできたが、まだまだ気になるところがある。工夫を凝らすところもある。しばらくは自宅のことが気になるだろう。

        チリ汚れ気にする妻の声響き
        室内の改造終えて気になる庭
         午前五時 庭の草を取っている

 綺麗になると少しの汚れも気になるものである。少し汚れた足で上がってくると、非難めいた妻の声が響く。「家なんて見るものでなく、使うものだ」と言って少し反発するが、ただ言ってみるだけのことである。
 さて部屋が綺麗になると、庭が気になってくる。今までは部屋から一部しか見えなかった庭が、今度はぐるりと見える。草も生え放題、落ち葉も落ち放題だったが、今度は目につくからそうもいかない。住宅として部屋と庭は一体である。暑い夏、涼しい内にと朝5時起きして、すぐに庭の整理に精を出す。数日して一通り綺麗になったが、この時期草の伸びるのは早い。取った後から生えてくる。新たな仕事が増えた。見た目にも心地よく保つのは大変だ。

 ということで自宅改造は進んだが、この際その中に住む人間の改造もしておいた方が良いだろう。これは更に難しいことではある。
         胃カメラに心身共に素直です
         古傷をえぐり出していく胃カメラ
          聴診器に心の内も読み取られ

 健康診断を受けた。年相応にいろいろ危険信号が現れている。胃の精密検査が必要と言われたのには、初めてのことでびっくりした。必要といわれたことは何でも受けてやろうと開き直り、胃カメラ検査を受ける。胃カメラを飲むのは初めてのことで、大変さを人に脅されもしたが、なるようになるさと素直なものである。結果を聞くときは少し緊張したが、特に問題になることもなくヤレヤレである。
         茄子トマト不作の年の自己責任
         言いたいこと多くなって夏迎え
          言い訳は年相応にうまくなり
           日記帳書いて過去のことにする

 言いたいことはいろいろあるが、言い訳すればできないことでもないが、しかし、今更右往左往することでもなく、自己責任と認め、過去のこととけじめをつけてしまおう。
         鉛筆を転がしゆくえ問うてみる
         淡々と老いるに十指ある強み
          雨用の靴買ってから雨が好き
           遠回りする楽しみを見つけたよ

 もうどうしなければならないと言うこともない、成り行きに任せ、しかしながら60年それなりにやってきた強みが無くなったわけではない。新しい事態に対応する気構えさえ失わなければ大丈夫、遠回りするのも楽しいこと、日々余裕を持って精進しよう、と結論を出してこの文を終わりとしよう。


川柳&ウォーク