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グラウンドワーク・第7話
C S R
一見平凡な日々の生活の中にも、時折妙味のある出来事が起きるものである。今回はつい最近私の身に起きたそんな話の一つを書いてみよう。 平成18年9月14日付けの建設業界紙を読んでいて「空飛ぶ車いす」という、何となく夢のあるタイトルを見つけた。早速読んでみた。前半部分を少し引用する。 『日本で使われなくなった車イスをベトナムなどに送って役立てている札幌市のNPOの話を聞いた。この事業遂行には2つの大きなネックがあったのだが、アイデアと企業との協働によってそれを見事に克服している。 ネックの1つ目は、輸送コストである。船便にしても車イスを海外に運ぶには相当の費用が必要。そこで、日本から海外へ観光旅行に行く人たちの手荷物にして持っていってもらえば輸送費が「タダ」になることに気づき、「車イスと一緒に飛ぶ人、大募集」とやったところ、アジア人気もあって大勢の協力者が現れた。 最初のうちは不思議がっていた航空会社もその趣旨を聞いてすぐに納得。車イスを受け取るために空港で待っている人たちのため、優先的に積み荷から出してくれたりもする。協力者となる旅行者自身も、現地で直接子ども達に車イスを手渡すことによってその笑顔に触れ、皆感激して「次回もぜひ!」となるそうだ。』 これは(財)中部産業活性化センターのSさんの文である。中部産業活性化センターという団体は初めて知るものであり、こうした事例を紹介するセミナーを開催するという文に、早速インターネットで調べてみる。そして、インターネットからセミナー参加を申し込む。開催日は9月29日である。 一方、9月25日朝方の職場の会議で、M部長から「これからの企業は、社会活動も評価される時代になり、我が社も考えねばならない」という発言があった。その発言に促され、9月29日参加予定のセミナーの話をした。会議後も二人でこの話の続きをした。そして、私にどんな活動をすればいいのか、適当な団体はないのか、考えてほしいと頼まれた。 会社にそんな気があるのなら本気で考えてみよう。しかし少し考え始めて、すぐに何も考える必要はない、身近でふさわしいものがある。それは私の参加している団体であり、それに加入してもらえばいいのだ。 その団体とは「NPO法人グラウンドワーク東海」である。グラウンドワーク活動とは「1980年代にイギリスで始まった、環境再生のための実践活動で、住民・企業・行政がパートナーシップ(協働)を組んで、地域の身近な環境(グラウンド)を整備・改善(ワーク)する運動」である。そして、グラウンドワーク東海の目的は「グラウンドワークを普及・啓発するとともに、グラウンドワーク活動団体を支援する諸事業を行うことにより、広く一般市民に対して、豊かな環境の実現や地域社会の発展などに寄与すること」としている。 早速資料を取り寄せ、M部長に話をした。9月29日午後の幹部会議で諮るという返事をもらった。 そして私は、9月29日午後のセミナーに参加した。そのセミナーとは「第1回CSRセミナー」というものであり、副題に「企業とNPOの感動的な出会い」とついている。「CSR」とは、私が始めて出会う言葉である。「Corporate Social Responsibility」の頭文字をつないだものであり、「企業の社会的責任」と訳されている。いただいた資料には「企業経営において、ステークホルダーに対する説明責任や協働等を通じて、社会における企業のあり方や価値観などを問い直し、人権尊重、関係法令遵守はもとより、社会および環境等の問題を解決していくために、事業その他を通じ存在意義を具現化していくこと」とある。「ステークホルダー」とはまたまた分からない言葉であるが、あるものには「企業活動を行う上で関わるすべての人のことを言い、顧客や株主ばかりでなく、地域住民、官公庁、研究機関、金融機関、そして従業員も含む」と書かれている。私なりに簡単に解釈すれば、企業は営利を目的としながらも、その事業または他の手段等を通じて、社会および環境等の問題解決に貢献していかねばならないということであろう。 セミナーは第1部にガイダンスとして、NPO法人パートナーシップ・サポートセンターの代表理事による「企業とNPOのパートナーシップ」の話、第2部として「アジアでの車いす普及の願いを集配トラックに載せて」「競い合い、磨きあう協働は紙面という場で」という2例の事例発表があった。非常に興味深く聴講した。 このセミナーを申し込むときには、個人的興味で申し込んだ。もちろん、気持ちの片隅には企業人として役立つことはないか、自分の会社に取り入れられることはないかというかすかな期待はあった。そして、このセミナーを聞く以前に会社幹部からこのような話が出たのは偶然であろうか。当然偶然であろうが、偶然というのは妙味のある面白いものである。 社会活動と一口にいっても、その範囲は広く、ひとくくりにできない。その中で、先にも書いたようにグラウンド活動は、住民、企業、行政が協働して、地域環境をよくしようというものである。建設事業に携わる企業にとって地域環境は切っても切り離せないものであり、グラウンドワーク活動ほどふさわしい社会活動が他にあるであろうか。 私がグラウンドワーク東海に係わるようになってもう5年目に入っている。その私が第二の人生の就職先として、この6月に建設事業に携わる会社に就職し、就職して早々の今、この二つの仲立ちをすることになったのは、何という巡り合わせであろう。会社にとって、グラウンドワーク東海にとって、さらに私にとって、幸運な出会いであった。今はそういえると思うし、将来に渡ってもいえると確信している。 9月29日の幹部会議で、グラウンドワーク東海の協力会員として加入、協力していくことが確認された。それを受け、10月8日に開かれたグラウンドワーク東海の委員会で、私からその旨を報告した。予期もしていなかった拍手喝采をいただいた。 加入すると会社にどういう負担が生じるのかという質問に、当面は@協力会員としての年会費(3万円)を払うことA平日勤務の日に私がグラウンドワーク活動に参加することを認めてもらうことB私と共に社員の数人にも参加してもらうこと、と答えた。活動はほとんどが休日であり、平日の活動はそんなに多くないが、それができるのである。平日の活動は参加できる人が限られているので、グラウンドワーク東海としても助かるであろう。 企業のイメージアップはこれからの社会に重要なことである。単なる利益追求では企業のイメージアップは図れない。利益追求と共に社会貢献していくのである。グラウンドワーク活動を企業人として活動しているうちに、個人としての興味に発展していくかもしれない。私は逆に個人としての活動から企業人としての活動になる。こうしたことに目を開いてくれた会社を大いに売り込んでいきたい。世の中持ちつ持たれつであり、一方的関係では継続は図れない。私の余暇活動がこんなところで会社に役立つとは思ってもみなかった。こんな出会いは層々あることではない。これからどんな発展になるか、興味は尽きないし、力を尽くしていきたい。 (平成18年10月18日) |