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新 し い 書 物

 今年3月に38年勤めた仕事を定年退職した。そして、6月から再就職し、2ヶ月半ばかり過ぎた。どうもまだ足が、いや気持ちや生活が地に着いていない。その中で軌道に乗ったことをひとつ紹介してみよう。

 週5日の勤務は変わらないが、勤務内容はかなり変わった。今までは机に向かっていることが多かったが、今度は営業が主ということで出かけることが多い。移動に車を使うことは自分らしくないので断り、多くは電車を利用している。
 再就職先が決まってこのような勤務形態が分かってから、この変化をどう生かすか、考えてみた。電車の中は読書に最適な場所である。机の前より集中できるほどである。私がよく本を読んでいた時代は、通勤時間が長かったときである。ここ何年かは雑誌類しか読んでいなくて、読書不足を感じていた。この電車乗車時間を利用して、再度読書に挑戦してみよう。しかし、文庫本や新書版程度ならいいが、それ以上の本となると結構重い。いろいろな物を持ち歩く必要があるので、できるだけ軽い物にしたいという希望が働く。
 本を読むには、買って読む、図書館などで借りて読むなどの他、喫茶店などで飲み物代を払って本は無料で読むなどの方法もある。昔は貸本屋で料金を払って借りて読むなどという方法もあったと思うが、今あるかどうか知らない。買えばお金もかかるし、保管場所も必要である。保管場所の問題は結構重要である。借りるには図書館なりに出かけねばならない。出かける場所や時間も問題になる。

 そんなときインターネットで電子ブックなるものがあることを知った。インターネットである程度どんな物か知ったが、やはり実物を見なければ分からないと電気店へ行ってみた。電気店でもなかなか置いてなかったが、名古屋駅前の大きな店で見つけた。乾電池を入れたときの重さは約280g、縦19cm、横12.7cm、厚さ1.5cmであるので、やや厚めの新書版程度の厚さ、大きさである。だから本の持ち運びとしてはかなり楽である。普通4万円以上の品物、現品限り3万3千円・・・まだ買うつもりで来なかったが、退職金も出ることである、思ったが吉日、エエッイ買ってしまえ!まさに衝動買いである。
 帰って早速に使う準備である。買ったのは、正確には電子ブックリーダーというものである。パソコンと同じで、ここまでではただの箱である。ソフトを入れなければならない。インターネットで電子ブックを購入してダウンロードし、更にリーダーにインストールするのである。電子ブックがいくらでもコピーできたら商売にならないので、まず使うパソコンと電子ブックリーダーを登録しなければならない。その上で、本を選んでダウンロードするのである。内蔵ハードディスクだけでも何十冊と保存できるし、メモリースティックを入れれば何百冊と保存し持ち歩ける。もちろんそんな必要はないが、新書版1冊程度の物を持ち歩きながら、そのときそのときで選んで読めるのは嬉しい。さらに、電子ブックリーダー自体に辞書類が4冊備わっているのも便利で嬉しい。さて、電子ブックの値段であるが、ボクの感じでは紙本の値段の2分の1から3分の1である。ですから、1冊が400円安くなるとして約100冊読めばリーダー代は只となる勘定である。逆にその程度は読まないと、高価な買い物となってしまうのである。

 ところが大きな問題がある。購入した電子ブックの多くが、60日間で消えてしまうことである。貸本屋さんから60日の期間で借りたことと同じである。さてこの代金は安いか、高いか・・・。ボクはこれを安いと理解した。その他多くのメリットがあると理解した。
@購入した多くの本で、再度開く本は少ないのである。特に小説など1回読んで終わりである。その現実から何も所有しなくても、60日もあれば十分である。そして、先に述べた保管場所の問題は全く起こらない。
A60日という有効期限があることで、積んでおくわけにいかない。それまでに読まなくてはお金をどぶに捨てることになる。何としても読もうという気になる。このメリットは大きい。
B電子ブックリーダーは5段階に文字の拡大ができ、細かい文字が読みづらくなった僕ら老人には大変便利である。この使いやすさの利点も大きい。
C本屋さんや図書館に行かなくても自宅で手軽に入手できる。
 等々利点が挙げられるが、@Aを利点と考えない人には、会員期間中有効という「ロングタイム」というシステムが最近取り入れられた。60日用より3〜5割方高いと思う。
 欠点も不便も当然ある。
@新刊本は紙本に比べてかなり遅れて発行される。こういう本をあさる人には不向きである。
A本を選ぶのに、与えられたあらすじと作者紹介から選ぶのであり、全編をぱらぱらとめくって見ることができない。購入に不安感がある。
B電源は単4の乾電池を4本使用するが、思った以上に電池寿命が短いのである。現品の欠陥かと思うくらいである。これが今私が感じている最大の不満である。充電用の電池を使用し、常時予備品を持って歩いている。
 Aの欠点を補うのに、これも最近であるが、立ち読みという機能が無料で多くの本に取り入れられ、目次や冒頭10数ページが読めるようになった。
 その他、写真や図入りの本は容量が大きくなるので少ないし、専門書はほとんどない。いろいろ制約はあるので、当然紙本との使い分けは必要になる。特徴で知り、選んでいけば僕ら凡人の雑読にはほとんど問題ない。大方の本はコーヒー1杯から1.5杯程度の値段である。できることではないが、毎日1冊ずつ読んでも安いものである。僕は買ってよかったと、大いに満足している。読書量は数ヶ月前と比べて、比較にならないほど多くなった。沢山読んで、電子ブックリーダー代の元を早く引かなくてはならない。

 実はこの電子ブックは鳴り物入りで販売されたが、普及しなかった。本は所有するもの、紙で読むものという観念を覆せなかったのであろう。皆さんはいかが理解されるであろうか。
 少し商品のコマーシャル文になってしまったが、私は決してこの商品の回し者ではありませんのでご理解を。
                                       (平成18年8月25日)


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