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世界自然遺産の旅
***屋久島と九寨溝・黄龍***

(やくしまときゅうさいこう・こうりゅう)

 定年退職し、次の再就職までの間に与えられた2ヶ月の自由時間。想定もしていなかった世界自然遺産を巡る旅を2つもしてしまった。1つは、たまたま出合った友人が屋久島へ行くという。それなら自分も仲間に入れて欲しいとつい頼み込んでしまった。そしてもう1つは、折角の時間なので外国へも行ってみたいなと考えていたところ、旅行社の説明会を知り、のこのこと出かけた。結局、中国四川省の九寨溝・黄龍を訪ねる旅を選んでしまった。屋久島についても九寨溝・黄龍についてもほとんど予備知識はなかった。それだけに行ってからの感動は大きかった。しっかり予備知識を持っていくのも方法だが、逆も意外にいい方法だと気付いた。私にとっては貴重な旅であったので、少し紹介したい。ただし、沢山のホームページで紹介されているので、私の感想にとどめたい。


 屋久島へは3人で4月27日から2泊3日で出かけた。中部国際空港から鹿児島に降り、高速船で屋久島へ渡る。2日目に世界自然遺産屋久島の中でも最大の遺産・縄文杉をめざすコースに参加する。荒川登山口から縄文杉までは往復10時間かかるということで、ホテルを5時前にマイクロバスで出発、途中の客も拾いながら荒川登山口に向かう。登山口にはもう沢山の人が来ているが、ガイドさんは、ゴールデンウィーク前で今日は少ないという。男性は我々3人、そして女性3名とガイドさんの7名で6時に出発する。標高差700m、片道11kmの道のりで、最初の約8kmはトロッコ道である。このトロッコ道は途中までまだ供用中である。話好きのガイドさんの話を聞きながらゆっくり登っていく。
 屋久島の杉の中でも樹齢1000年以上の杉を屋久杉と言うが、そんな屋久杉がだんだん目につくようになる。そしてまず三代杉、以後、ウィルソン株、大王杉、夫婦杉と名付けられた杉を次々と見ていく。最後に樹齢7200年と言われる巨大な縄文杉である。出発してから縄文杉まで5時間半もかかっていた。

トロッコ道(左・供用中 右・廃線)

ガイドさんの説明を聞きながら歩く

三代杉

ウィルソン株

縄文杉見学台

縄文杉

縄文杉根本に来た鹿


 巨大な杉に圧倒されるが、私が一番印象深かったのは、屋久杉の生命力である。樹齢もさることながら、特にその生命力を感じられるのは、切株更新、倒木更新と言われるものである。屋久杉を切り出し、残った切株の上に新たな杉が育つのが切株更新である。切株から芽が出るのではなく、切株の上に落ちた種子から芽が出るのである。三代杉はそれがもう3代目というのである。初代の杉は跡形もなく、今では2代目の杉の中に空洞としてその形をとどめている。倒木更新は、倒木した幹の上に種子が芽を出し根を張ったものである。そんな杉が次から次へと現れる。この屋久島の自然がなせる技が私の心を一番捉えた。
 次に目を見張ったのは、隣り合った木が一体化してしてしまうものである。その代表的なものが夫婦杉である。伸びた枝が接した木と繋がってしまって、水分や養分が行き来してしまうのである。ほかの地でも見られないわけではないが、ここではいくらでもそんな木が見られる。

切株更新

夫婦杉
 屋久島は日本でももっとも雨の多いところで、その雨の多さがこの自然を形成するのであるが、我々が行った3日間は雨に会うこともなく快適な旅行となった。



 中国へは5月13日から20日まで8日間で出かけた。参加者は11名、奇数なのは私以外は皆ふたり連れであったからである。中部国際空港からまず上海へ、ここで入国手続きをし、再び重慶に飛ぶ。2日目は成都市内を少し見学して綿陽泊。3日目はひたすら山岳道路を走り、九寨溝泊である。こんな山奥にこんな華やかな町があるのかと不思議に思うが、まさに観光のためにできた町である。ここまでのバスの走行距離は約800kmである。
 4日目にしてやっと世界自然遺産・九寨溝の見学である。九寨溝は樹正(じゅせい)、日則(にっそく)、則査娃(そくさあい)という3本の大きな溝からなり、各溝に沿って100以上の大小の湖沼がつながっているとある。標高2000mの入り口から最上部の長海は3150mである。
 入場口は大変な人だかりである。入場ゲートを通り、その後は専用バスで見学となる。見所で降りて見学したり、ある区間をミニハイキングしたり、6時間かけて見学した。私の知識で日本の場所に例えれば、富士五湖を奥入瀬渓谷でつなぎ、一般車を乗り入れ禁止にしたところと言えようか。私がまず喝采したのは鏡海である。波ひとつない湖面に地上の景色をみごとに映し出す。まさに線対称である。写真であったら逆さにしても分からないのではなかろうか。そして、珍珠灘(しんじゅたん)瀑布と樹正群海である。木々の間を縫って流れる美しい風景、エメラルドグリーン、マリンブルーなど様々な色合いの水に感嘆の連続である。

諾日朗瀑布(にょにろばくふ)

鏡  海

珍珠灘瀑布(しんじゅたんばくふ)

五彩池

樹正群海


 翌日は黄龍である。九寨溝から途中標高4000mの峠を越えながら、3時間半ほどで着く。黄龍は、今年8月ころからロープウェーが開通するようだが、今のところ入り口より歩くより仕方がない。標高は入り口で3000m、最奧の五彩池では3600mになる。高山病にならない注意を受け、簡易酸素ボンベをもらい、ともかくゆっくり登っていく。残念ながらまだ雨期前で水が少なく、その美しさを見られる箇所は少なかった。それでも最大の見所・五彩池は十分に水が満たされ、思わず目を見張る美しさであった。ブルー、黄色、エメラルドグリーンなどまさに五色以上の色合いを見せていた。この風景を日本に例えれば棚田であろう。大小3000の湖沼があるという。畦の部分も田面も石灰分で覆われていて、そこに水が溜まり、太陽光線の当たり方で素晴らしい色模様を醸し出している。ガイドブックによれば「長い年月を通して石灰分がとけ込んだ水が流れ続け、次第に水分中の石灰分が枯葉や枯れ枝などに付着し、石灰華となって水をせき止めていった。この石灰華に覆われた底を持つ湖沼が連なり、この風景が形成された。湖沼の底だけでなく地上に出た縁などが白くなっているのは、沈殿した石灰華が地上に露出した部分で、黄龍独特の風景を作った」とある。鍾乳洞のように、とても長い期間をかけて自然が作り出した造形美におののく4時間ばかりの山登りであった。

黄龍寺

五彩池

黄龍寺と五彩池
 その後成都市近くの都江堰、重慶の大足石刻の2つの世界文化遺産も見学して帰国の途についた。ここも雨の多い地域であったが、旅行中の8日間は、黄龍でほんの一時降られた以外降られなかった。我々が着く前日まで雨が降り続いていたと聞いて、なんという幸運であったかと思う。しかし、思わぬトラブルもいくつかあり、ホテル到着が午後10時を過ぎることが4日間もあった。それが旅というものであろうが、無事帰国できればそれもいい思い出である。


 貴重な時間をはからずも世界自然遺産を巡る旅になったが、これは非常に有益な過ごし方になったと満足している。屋久杉という驚くべき生命力と九寨溝・黄龍の地勢がおりなす美は全く違うものであるが、共に自然が長い年月かけて作り出したもの、自然への畏敬の念を改めて深める旅であった。それにしても、こんな時までウォーキング、山登りを選ばなくてもいいものを、意識しなくてそうなったのは我ながら面白い。
                                               (平成18年5月28日)


川柳&ウォーク