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「話・話」の船出

 今年(平成16年)4月、5年間勤めた職場から転勤した。今までは新聞をみるような余裕はなかったが、今度はそんな時間もある。いろいろ見ていると、記憶しておきたい内容や、人に伝えたい話も結構目につく。

 そんな時、人のホームページで日記帳なるものが気にかかった。それまでも全く知らなかったわけではないが、使ってみようとする気がなかったので、やり過ごしていた。しかし、この伝えたい話を題材に、この日記帳を活用すれば面白いものになるのではないかと思いついた。そして、「cgiboy」というレンタルの日記帳を見つけて、それを活用することにした。6月から本格的に開始ということで検討を始めた。タイトルは「伝えたい話・残したい話」(以下、「話・話」と書く)とし、5月26日に「設立の意図」として「日々の出来事や、話、言葉などで、皆さんに伝えたいこと、記憶しておきたいことを週に2回を目標に書いていこうと思っています。おつき合いください。」と書いた。単なる日記帳ならもう20年近く書いているが、毎日の自分の出来事ではなく、テーマを見つけ、短い文章にまとめてホームページで公開するのである。それも読んでもらう人にとって意味のあるものにしなければならない。少し余裕の出た自分に自ら負荷をかけたのである。考えてみれば自分の能力にしては大変な負荷である。本当にできるのだろうか、三日坊主で終わるのではないか。


 それ以後、本や新聞を見るとき、このテーマになるものはないかといつも気を使うようになった。そんな中、6月10日に日経新聞夕刊に眉村卓著「妻に捧げた1778話」という本の紹介記事を見つけた。「ガンを宣告された妻のために、作家である著者が始めたのは、毎日一編の小説を書いて読んでもらうことだった。亡くなるまで綴った1778話から19話を選び、夫妻の40年以上にわたる結婚生活のエッセイとともに1冊にまとめたのが本書である。」 とある。今まで眉村卓という作家は、名前を知る程度で作品を読んだことはない。しかし、5年近く1日も休まず毎日「お話」を書き続けて1778話、早速本屋さんに出かけて購入してくる。その中からもう少し説明をする。 「余命は1年と宣告されて、何か自分にできることはないだろうかと考え、思いついたのが、毎日、短い話を書いて妻に読んでもらうことであった。書くに当たっては400字詰め原稿用紙3枚以上とし、エッセイではなく、必ずお話にする。一編一編が商業誌に載ってもおかしくないレベルを保持する。」 自ら課した制約の多い文章で、大変な負荷である。それが喜ばしいことに5年も続いてしまった。ガンには毎日を明るい気持ちで、よく笑うようにすると体の免疫力も高まるというが、まさしくそれを示す結果だったのである。著者は辛いと思ったことは一度もなく、なすべきことをしているという充実感に似たものさえあったという。とは言いながらも、お百度みたいなもので、中断したら病状が悪化する気がしたとも言っているから、辛いときもあったと思う。書くのがプロといえども、人間には素晴らしい能力を持った人があるものだ。

 さて、私が「話・話」を始めたら、たまたまこの本に出会った。私のは単なる書き写し、字数も500〜700字程度で比較にもならないが、それでも何か縁みたいなものを感じた。私もやらねばと、叱咤を受けた気がする。6月は12話、7月も12話書いた。(8月15日現在通算36話になっている)まだ慣れないからか、かなりの負担に感じている。短い文章に要約して、自分の意見を少し書くだけだがなかなか難しいものである。でも、話題を見つけると嬉しいし、新しいことを知ると楽しい。長く続ければ、私自身にきっといい結果を生み出すに違いない。現段階で言うのは軽率であるが、一生の課題にならないかとさえ思っている。「話・話」の第10話で「妻に捧げた1778話」を紹介したが、その文の中で「その爪の垢ほどにもならぬが、私も密かに決意するのである」と書いたのはこのことである。現在、私の文を載せた日に挟んで、高校の同級生が寄せてくれた文や、1年間の予定で渡米した知人のアメリカ便りを載せている。私の堅い文の息抜きになっている。また、ある歩友が1行メッセージという形で私の文に感想を書いてくれている。こうした応援者も得て「話・話」は順調に船出した。                          (平成16年8月22日)

川柳&ウォーク