zu023
ある愛妻物語


  この物語は同級生・立夫君から掲示板等に寄せられた
彼自身の話です。折角寄せていただいた麗しい
話しですので、彼の了解を得て、彼の愛妻・康子さんの
冥福を祈りながらここに掲載します。
一部省略しています。(平成13年12月15日)


「いつも立夫さんの側に居たいの!」
「愛するのは立夫さんだけ!」
いつもこんなこと言っていたほんと可愛い妻です!

時は万博の準備に沸く昭和四十五年一月頃、景気も良く喫茶レイクは大繁盛、
すぐ隣の安藤さんへ コーヒー出前に行った時の事、
奥さん「あなたお嫁さん決まった?」 突然の話 「まだです」
母を亡くして三ヶ月、地に足が着かない日々、どたばたしながらもレイクはとても忙しい。
でもこの二ヶ月でお嫁さん候補四人とそれとなくお付き合いしていました、
その内の一人 近所で評判の美人(康子の同級生親友)がバイト兼男だけの我が家に
ご両親公認、志願で手伝いに来てくれました。
色白で目はパッチリ 愛嬌良く商売向きの彼女、話も合いこの子お嫁さんにしようかな?
でも美人過ぎるし 振られるよな! なんて思ってた矢先の出来事。
実は高校三年の時、超能力者から花嫁は近所で南東の家、末っ子で歯並びのきれいな
目の小さい子を探しなさいと言われていた!
この子は当てはまらない、康子は全てピタリ! 彼女の高校一年の時、一度だけチラッと
見たことがあったのです。
この子だな! 「今どちらに?」「短大出まして 大阪に女中に出しています」
これで決まり!私の両親も姉を女中に出したので、この親、その子供なら間違いない!
「お嫁にください」 即答しました。
「康子はあなたの事 高校の時から見ていますよ!」
一宮高校一年生と三年生 半年は同じように通学していた訳です。
また弓道部に彼女の親友数名いて、私の事は聞いていたみたい、またコーチの私を一商
から連れ戻した学年で、特に付き合いが深い学年でもあったのです。

転居して来て喫茶店始め六年たったところ、あのキザな写真渡してお見合い写真。
二月十七日の昼 お見合いデート!
レストランで食事 レジでチョコレートの花のお菓子 二三本買ってあげた、
(このお菓子が康子生涯の宝物です、今でも大事にタンスの奥にしまって有り
六月二日の結婚記念日に 必ず出して ニッコリとして見せてくれるのです。
ほんと可愛い女 嬉しい妻!)
このお菓子を渡して受け取ってくれたのが、両者承諾の気持ち!
家へ送り届けた時お母さんから 「座禅の師匠が危篤」 と知らされ号泣!
この日は忘れられない日。


春になり万博開催、デートは有ったんですが やはりお互いカチカチで、どこへ行ったのか
全く記憶に無い!
結婚式は六月二日、ジューンブライドにこだわり梅雨前に! 眞清田神社であげました!
緊張してたんだろうか その日のことも あまり覚えてないのです。
新婚旅行は志賀高原へ白の新車で!この車に空き缶二十個ぶらさげ、全面落書きで
うめつくし そのまま一キロ程市街の外れまで走りましたね! 恥ずかしいのなんの!
でも当たり前の様に、祝福を受け止めていた 「二人幸せ!」
妻の嬉しそうな横顔とは別に、車の運転と不案内な初めての道 まだ高速もなく松本まで
七時間あまり 車中では緊張が晴れ 話もはずみ デートより楽しかった!
可愛い横顔見ながら「こんないい娘を妻にしたんだ」 はっきりそう思ったのです。
夜遅く やっと松本 浅間温泉 ウェストンホテルに到着!
ここからは新婚さんの甘い秘密、秘密なので秘密!

(中略)

新婚間もなく 中日文化センターの 茶道教室が始まる事になりました。
二十四才の事です。
有り難いことに、師匠は私を助手に任命してくださった、(先生見習の為に)
何ヶ月かして康子 「お願いですから茶道の先生は辞めてください!」
そうでした、生徒さんは若いお嬢さんばかり また超ミニスカートの全盛期!
ヤキモチの始まりでした。
余りにもけなげに 涙を流しての懇願、師匠には言いにくいところをお願いして
一年たらずで辞退したのです。
この頃から 胃炎で身体の調子を壊し始め 茶道もしばらくお休みすることにしました。
喫茶店は大盛況 毎日フラフラになるまで働いた。
長男が生まれ、疲れた身体と心を 父親の自覚と責任感が押しつぶそうとしていました。
またコーヒーの味に もうひと工夫しようと考えた、何杯も飲んだ 夜遅くまで!
やっとまずコーヒーの味はクリアしました 絶対の自信作できました♪
腕をあげたのです コーヒー方程式を確立したのです!
この頃 写真にも凝り 休みは徹夜で撮影に行くこともありました。
康子と息子ともよく行きました、二科本展 二年連続入選も康子の協力のオカゲです。
康子手作り イニシャル入りカメラソフトケ〜ス 今も大事な宝物!
その後 カメラマンのセンスに限界を感じ 写真はきっぱり断念し、
父親の勧めで 身体と心を直すべく 魚つりを始めたのです。


(中略)

43sまで痩せ ガタガタだった身体も 竿を見つめ 何も考えず 
ひたすら自然の懐に身を任せることで すっかり元気になりました。
五年くらいやったところで「康子も一緒にやる!」
やる気満々 三度目であのでか鯛を釣っちゃいました! それからは腕前逆転!
いつもでかいのは彼女の竿ばかり!敦賀は沓の海へ二人と一匹(愛犬モンドノスケ)
十二年通い続けました。
唯一 魚つりだけは邪魔者無し 一日中ぴったりできるのです。
小さなボートに二人きり、澄んだ空気と木々の緑 頭上には トンビがゆったり遊んでいる、
この感覚は 新婚旅行で味わった空気に どこか似ている!
二人共 この景色は飛び切り気に入ってました。

康子の釣りは「釣りよりだんご」。
弁当と飲み物が 出るは出るは! 特にアンパンは必ず持参!
海に出たらまず念入りにお化粧 おにぎりアンパンを準備 トマトジュースを半分飲み
「さーボチボチやろーうか!」
私が餌まいて 魚を寄せて いいところで康子名人登場♪
康子はいつも言ってました
「私は釣れなくてもいいの! 立夫さんが釣ってくれるのが一番嬉しい!」
妻の鏡みたいな、可愛く優しい愛妻です。
そんな事言いながらも腕前は康子が上、黒鯛41pこれが彼女の記録!
その黒ちゃん 私がタモですくわせていただきました! デカイデカイ!
凄く喜んで ぎゃーぎゃー騒いで お祭騒ぎそのまま 帰り道も楽しい楽しい!
写真もしっかり写して 仲間にも喜んで話してました、
それも 昨日の事の様です!その尾びれは今でも記念にだいじに冷凍保存してあります!
亡くなる時
「もう一度 立夫さんと魚釣り行きたい!」 が言葉でした。


平成元年十月中過ぎ 息子の胸に抱かれて ちょっと大きめの子犬がやって来ました。
純血コリーの黒、純白のエリマキ、額に少し白い模様、可愛いのなんの♪
名前は 「モンドノスケ」 東映チャンバラの英雄の名前をつけました♪
おじいさんの十八番、大喜び大賛成!
康子が一番面倒をみていました。当然モンドも康子が大好き、
シツケされ芸を仕込まれるのも 大喜びでシッポ振り振り♪ おとなしく賢い犬です。
康子の言うなりです♪ いろいろの芸を覚えました。
極めつけは「モンド! 新聞取ってきて!」 毎日喜んで取りに行くのでした。
アレルギーがあり、御飯は菜食主義で康子の手作り、この後十三年 毎日毎日。
康子の努力はたいへんでした、そのおかげでモンドは長生きできたのです。
康子は河原の広いお花畑でモンドと戯れるのが好きでした、一面の花 花 花
菜の花 スイートピー コスモス 格別は桜の散る中、季節ごといつも平日なので
誰もいない♪ オモイッキリ遊んでました、モンドと共にとても嬉しそうでした♪
魚つりにも必ず連れて行きました、少しでも顔が見られないと ナキッパナシ、
大きな体して 情けない声です♪
康子は「私より先に死ぬのが可愛そう!」と言っていました、

(中略)

平成十三年一月 東京での治療も万策尽きてしまいました。
康子を治せる医師は居ないのか。
あの神様にお願いしよう、
二月一日 奈良の大神神社に行きました、「お力のとても強いお方を紹介しましょう」
新潟の方です、早速その場で電話しました。康子の名前を告げただけでした、
すぐに「駄目です 残念ですが今年十二月までです、正月は越せません!」
ショック! 「でも何とか助けて下さい」
「気が済むまで 神様におすがりなさい それがいいですよ」
辛いです 残念です・・・!
闘病の事は 書けません 辛すぎます 悲し過ぎます かわいそうです!
とうとう十二月が来てしまいました、 不安です。
十二月四日は私の誕生日 暗い予感がしました。
やはり 十二月四日が命日になってしまいました。
康子らしく 最期までも私と手をつないだのです!
        永遠に一緒です!
        精一杯の愛です!
神のお導きで私に嫁ぎ 神のご意志で旅立ちました。
決して忘れる事は有りません、
康子は「私の愛妻 康子」です!!  かわいい康子を偲びつつ
「愛妻康子物語」 を 「釈尼慈康」一周忌にお供え致します。   合掌
                         平成14年12月4日

                      



水芭蕉池に眠る康子、もう一つ 最期の望みもかなえて上げたい!
それは二人で通った「魚釣り」
亡くなる時の言葉
「もぅ一度 立夫さんと魚釣り行きたい!」
悲しい 悲しいね!

二人で行くのがほんと好きだった♪
康子の釣りは小学生、待ちに待った遠足 ピクニックに行くみたい♪
まずは楽しい楽しい♪
朝に弁当いろいろ作り おしゃれな着替えも取り揃え、出発時間はとぅに過ぎ、
現地着 お日様真上でお昼過ぎ。
私の釣りは釣り馬鹿の釣り。
徹夜になっても夜明けには、しっかり竿を出すのが釣り士の意地♪
面倒な弁当など無くていい! コンビニの コーラ3本おにぎり3個有ればいい♪
ほんとはそーしたいが 可愛い康子にはとても無理。
そんな事など とっくにポイ!
敦賀、沓の「民宿中村」さん。ここが長年穴場の釣り場♪
ご夫婦の親切なのはこの上ない、「人」が善いのです!
かれこれ20年以上も前の事です。
真鯛とふぐの養殖いけす 「これにボート繋いでいいよ♪ 楽しんでください」
こんな親切聞いた事無い! ぞっこんご主人にほれ込んだ♪
5年程は一人で通い 留守番はいつも康子の仕事でした。
つまらないのか「私もやるーっ!」
6月から10月までの休日は 必ず釣りデートでした♪
康子「私は釣れなくてもいいの、立夫さん釣ってくれるのが一番嬉しい♪」
普通そんな事言えませんよね?
彼女は心底私を愛していた、 痛い程判る♪
腕前に差は有るが「それでも何とか釣ってやる!」これが並みの人の言分です。
いけすは岸からせいぜい120m、波は有っても釣りは出来る♪ 全天候型の良場です。
北と東は小高い山、南と西が海 敦賀の町が眼に写る。
狙いは夕方 西を向いてはまぶし過ぎる、
いつも東のきれいな小山 木々も手付かず背が高い。
トンビの巣が 幾つも在るのが判る程 空にはいつもピーヒョロロ♪
新緑や紅葉の頃なら最高です。
ボートに乗ったら二人きり、他の釣人ほとんどいない♪
康子あのデカ黒鯛釣ったのは 確か夕方暗くなる 一歩手前の一瞬でした。
ゴトゴトズウーンと大きな当たり♪ 竿を立てようにもビクともしない
次の瞬間強いしめ込み!
びっくりした康子、力負けして竿を落としてしまった。
運良くボートの内だった、 さっそく拾うが興奮は最高潮!
何をしてるかさっぱり判らず 「立夫さん立夫さん!」黄色い声の連発です。
私「糸は太い、何がなんでもリールを巻け!」
ガムシャラに 力いっぱい巻く康子。
黒ちゃんショックで脳シントウ!
ぽかーんと浮いて来た♪ やったー ヤッタネ康子!
手も顔も 全身震えて止まらない。
41cmの黒鯛大記録。これがヒーロー伝説実話です♪
                           平成15年5月15日


 平成15年5月15日、朝から雨、私の「愛妻康子物語」と、
康子と大郎祖父さん 愛犬モンドの写真
それに線香 ロールケーキをビニールに入れ 朝9時に家を出た。
何か嬉しい、康子といるみたい。
生前約束してた 白川郷大窪の水芭蕉池、
毎年 ゴールデンウィーク明けの近くには 必ずここに来て
新緑の空気を いっぱい吸うのが二人の楽しみ。
また地理的に奥まったせいで 誰も来ない、
二人だけの秘密のデートスポット♪
「私が死んだらここで眠りたい!」 この約束果たす為。

最初に来たのは25年程前、
雪解け水の手を刺すような まだ春浅い そんな頃の事でした、
対岸に木蓮の木がただ一本、真っ白で見事な花盛り♪
誰もいない、何もない中しっかり生きてた。
もぅ写真は止めていたが あのフレーズならピカ一でした。
康子も私も この静けさに心洗われ 魂の冴えも覚えたのです。
康子「来年もその次も 必ず来ましょうね!」

水芭蕉は五月の始めが一番見頃♪
でも人混みは絶対イヤ!
高校の テスト週間がこのチャンス(弓道部の指導が休みのため)
絶対来ますこの景色、二人にとってここは そんな想い出の処です。
サービスエリヤ 高山ラーメンの旗に目を奪われ 休息。
少し早いが昼飯代わり。
康子なら必ず買います アンパン二つ「立夫さんと私の分ね!」
ブルーベリージュース、その他お供えを物を買い加え 10時頃エリアを出た。
彼女の好きな東海ラジオ カニタクを聞きながら、御母衣ダムに近付いた。
雨にけむり 水面も対岸線もおぼろげです。
12時少し前現地に着いた。
まだ雨、
車を降り 荷物を手にしたら すぐに雨が止んで 柔らかな日差し♪
不思議な事も有るもんだ?
有り難い♪
山の新緑が 水煙りと合間って さながら水墨画の世界♪
二人共 この季節この景色がお目当てです。

池まではほんの50m、花は終わっていたが この辺り一面 カタクリの群生地。
康子が喜ぶ花園です♪
池の周りは小路が巡り、モンドも楽しく歩いた小路♪
水芭蕉、一番手前の花に康子を飾り、線香もちゃんと上げ
アンパン、ケーキ等 康子の好きなお供えもし、 丁寧な経を三巻あげた。
火の点いた線香持ったまま、水芭蕉の花に誘われて ゆっくり池を半周した。
奥まった小さな川の流れ込み、小さく可憐 ここの花の具合が一番綺麗♪
その後 康子の写真まで戻ると、
私の回りを小さな蝶ちょが 遊ぶ様に翔んでいた♪
とても可愛い♪
「康子だ♪ 絶対そぅだ!」

山を下る途中、すぐに元の雨になった!
康子を思う帰り道、
二人で旨い蕎麦が食べたくなった。


                               (平成15年12月15日 掲載)

川柳&ウォーク