ちたの風 第258号
         (平成13年9月号)


                          雑  詠 

目に見えぬわたしの変化に気がついて   美保子

   寝たきりの人と思い出話して   民夫
   どこへ行く日傘の上の灼熱は   靖一
      待ち合わせ時間に友は来ていない   八重子

引きどきを考えている熱帯夜   風子
   一日を生きて傷口一つ増え   英人  


騒ぐだけ騒いで眠る男ども    千津子
昼食にも夕食にも出す冷や奴   愛
     黄砂かしら 二日も景色よく見えぬ   白紅    
麓まで甘さ届かぬかき氷   典子

 
     手帳には戦うその日を記しておく   昌利
    咳が出る 人を不快にさせるほど  幸智子
夏の雨 夢さえ流し去るように   和尾


              沢 英人が鑑賞する今月の2句  

 蒔いた記憶がないのに、芽が
出て、何なのだろうと期待
半分で観察している。
 それが綺麗な花だたりすると
感激である。
 自然には良くあることである。
 ところで人生にはこのような
ことはあるであろうか。
 何でこんな不運にあわねば
ならないだろうかと、嘆いたり
するが、人生のことは大方
種が蒔いてあるのである。
 
              
今年は本当に暑い日が多かった、
記録的な暑さであった。
年々暑くなっている気がする。
作者はそんな日でも普通と変わ
らず、平凡といえども穏やかな
日を過ごしている。
「特別」と「普通」を対比させて、
面白い。
大方の人もこのように過ごして
いるが、このような句を淡々とは
詠めない。



課 題 「 涙 」

ヒロインになれる強さも弱さもなく    千津子        
    赤ちゃんの涙は何のサインかな   美保子         
 病む人に涙は見ずに話する   民夫
  
   嬉しくても悲しくても同じ成分   靖一

       にんげんに生まれて流す涙かな   八重子

      
涙腺に故障があるのか泣けぬまま   昌利
           赤ちゃんの笑顔涙の跡がある   風子       
           なんという暑さだ涙止まらない   英人      

汗なんだと言い訳をしつつ涙拭く   白紅
ヒロインは涙もろくて力持ち   和子
 恐竜の涙を溜めて海できた 
  愛

            
涙など見せないで泣く蝉ばかり   典子
               ドライアイ わたし繊細なんですが   幸智子   
涙とは嬉しいときも寂しいときも   和尾

 
   (随 想)    「ばあば」でしょ!      
                             典子

   まだ3歳と9ヶ月というのに、園に通っている孫娘は、
  お世辞を言うことを覚えたらしい。お盆に家族が集ま
  り、大人はお喋りに夢中。誰か遊んでくれるものは
  いないかと彼女なりに考えたようだ。そこで、私に
  白羽の矢が立った。
   「ネエ、オネエサマ、ボールアソビシマショウヨ!」
   と、きた。
   私は自分をさして
    「楓ちゃん、この人は〈ばあば〉なの?」
    と尋ねたらテレながら、
    「オネエサマ・・・・」
   といってくれた。
   当然、素直に喜べなかった。
   むかし、わが息子達は、こんな気の利いたことは
  言えなかった。今でもきっと同じだと思う。しかし、
  このごろの子供は・・・・・と驚いたり、苦笑したり・・・・。
    そのとき、みんなの目と耳は、私達二人に集まって
   いたのは言うまでもなかった。

   
      

         

      共 選 「雑 詠      

1席  炎天下 口を動かす気力なし  英人

2席
 催促の電話はいつも手短に  八重子

3席 よく眠る人の隣で眠られず  八重子

4席  にわか雨 コンビニまではあと少し  幸智子