英 人 の 川 柳 観
1)始めに 「川柳連れ連れ草」を立ち上げましたが、立ち上げた意図は皆さんと川柳を楽しもう、川柳を発表する場を作ろうということであります。しかし、特に指導者を招いているわけではありませんので、私を主宰と思われる方もあろうと思います。この知識、能力にしてそれはあまりにおこがましいことですが、しかし、その責任として浅学非才を省みず、私の川柳観を述べておきたいと思います。少しでも参加者の参考になればありがたいことです。 2)川柳を始めるきっかけ 私が川柳を始めるきっかけは、昭和54年12月に、妻が小学校で開かれた「短詩型文芸について」というPTAの教養講座に出かけたことにあります。その文芸というものが川柳でした。渡辺和尾という川柳作家が同じ団地に住んでみえると聞いて、それならと数句を作り見てもらうために届けました。先生は名古屋を中心にすでに20年以上も活動をしてみえましたが、地元で川柳に興味がある人がいるなら会を作ろうと思い立たれ、昭和55年3月に「川柳東浦の会」が発足したのです。 私はそれ以来、この会が解散する平成13年11月までの22年間、この会を中心に川柳活動をしてきました。と言っても会が発足してまもない昭和55年11月に東浦の地を離れたので、毎月1回の例会に投句するだけの活動になりました。和尾先生の話を直接聞く機会もあまりなく、会員の句を参考にしながら我流の句を作ってきました。そんな中でできた川柳観にどれほどの意味があるか疑問ですが、少し書いてみます。 3)川柳の歴史 川柳の歴史を簡単に見てみると、1780年代、雑俳前句付の付句が独立して川柳になったと言われています。雑俳では7・7の短句(題)を出して5・7・5の長句(付句)を付ける、この長句が独立したのです。川柳という名称は創始者の柄井川柳の名によります。滑稽味の強い句が増え、特に柄井川柳(1790年没)没後は狂句と呼ぶにふさわしい句調となります。1900年ごろ井上剣花坊らによって川柳革新運動が起こり、文学としての新川柳が意識されるようになります。やがて、川上三太郎、岸本水府、麻生路郎などの川柳作家が排出して大衆に広まっていきました。現代になって、伝統的川柳、社会諷詠的川柳、革新的川柳など、その句風は多様化しています。 4)現代川柳 新聞を始めマスコミで見る川柳は20年前と変わらず、風刺、駄洒落、滑稽味のきいた伝統的川柳や社会諷詠的川柳が大半を占めています。それは川柳とはそういうものだという認識が一般的だからです。しかし、和尾先生の川柳は当初から風刺、駄洒落、滑稽味に重きを置かない川柳で、革新的川柳と言われる部類に入っていたでしょう。当時は異端ともとられていましたが、今では会(結社)で行っている川柳はかなりこの傾向になっています。この20年でかなり変わってきた訳です。現代川柳という言葉もよく使われますが、それは革新的意味合いも含めています。どの川柳も生きている人間を詠むことに違いはないのですが、現代川柳という言葉は伝統的川柳や社会諷詠的川柳と区別するために使っていると言えます。あえて言えば、人間の行動より想いに重きをおいていると思います。 私の川柳のきっかけが和尾先生であり、現代川柳であったことは非常に幸運であったと思っています。伝統的川柳や社会風刺的川柳もひとつのあり方であり、その価値を否定するものではありませんが、現代川柳に多くの魅力を感じています。そこには文芸としての詩情を大きく感じるからです。万人が万人、同じ解釈にならない奥深さを感じるからです。それが現代川柳の持ち味と思っています。作品は発表したらもう作者だけのものではありません。作者が思ってもみなかった解釈がされることがあります。多くの大会ではA氏が最優秀句に選んだ句がB氏は入選にもとらないということが多々あります。多々どころではないかも知れません。ですから作品の評価は読者によって変わってきます。それだけ現代川柳はまだ確立されたものがないということかもしれません。私はこれで良いと思っています。様々な発想、感覚があって、それが個性です。評価が同じになる必要はありません。また、同じ人が時間を変えて読むと、また違った意味感覚になることがあります。私はこんな句にこそ魅力を感じます。 現代川柳は俳句との違いがよく分からないと言う意見があります。確かに現代川柳は川柳というジャンルに属しているから川柳であり、俳句というジャンルに属していれば俳句と言われるものが多くあります。俳句にも改革の流れがあり、川柳との垣根が低くなっています。私はこれもこれで良いと思っています。それでも、長年つちかった感覚でしょうか、川柳と俳句はやはり違うと感じています。俳句では詠めない(詠みにくい)ものを川柳で詠む、と言う表現もあると最近一人で頷いています。 5)作句の基本 作句するにあたって、重要だと思うことを数点書きます。 ●川柳はまず「5・7・5」の17音で書くことです。一呼吸でスムーズに快く読めることが大切ですので、この17音は極力守った方が良いと思います。ただ無理に5・7・5に収め、流れの悪いものにすることもないと思います。「中8は避けよ」とはよく言われることです。 ●口語で書きます。「や、かな、けり」と言った切れ字の多用も避けたいと思います。 ●一呼吸で読みますので、マス空け(一文字の空間)も原則しません。ただ意識的に一息切らせたい、ハッと思わせたいという効果をねらって一マス空けることがあります。これも多用は避けたいと思います。 ●これが一番重要なことですが、生きている人間を詠む、人間の想いを読むということです。自然を詠んでも花や動物を詠んでも、その中に人間が感じられることです。その中に人間が託されていることです。思想や抽象的なものが感じられればより味わい深いものになると思います。ただ注意したいのは、あまりに自己の世界に浸りすぎて、読む人には何を言っているのか、どうにも分からない句になることです。慣れてくると平易な句に飽きたらず、難解が高尚という錯覚に陥りやすいものです。あまり平易すぎて面白味がない句、あまりに難解で理解できない句、この間のさじ加減が難しいところです。 ●他に私が気をつけていることとして、一般に使われる漢字はできるだけ使います。ただし、10人のうち2・3人しか読めないような漢字や当て字は避けます。又、平易な言葉を使うように心がけます。発表した句は人に鑑賞してもらいます。鑑賞者が読みやすい句に心がけることです。 ●略語やその時代の著名人の名前を使うことも、時事川柳なら良いですが、避けた方がいいでしょう。数年もすると意味不明になる恐れがあるからです。 6)作句の手法 想いが湧き出るかのごとくすらすらとできるときもありますが、多くはなかなかそのようにいきません。なかなか句ができないときの作句手法(自由句)について書いてみます。 第1段階 (第1法)思いついたことを手当たり次第に短文(25字程度)にする。 (第2法)漠然と考えていて何も浮かばないときは、「テーマ(課題)」を決めて 考える。焦点が定まり意外に良く浮かぶ。 (第3法)いつも同じ発想と思うときや発想が広がらないときは、本を見ながら 自分があまり使わない単語を拾い出し、それをテーマとする。 第2段階 できた短文を推敲しながら575にまとめる。 第3段階 更に言葉を置き換えてみる。一語置き換えるだけで全く別の感じの句になる。 第4段階 数日おいてまた見直す。 文章にしてみると、こんなことを繰り返しながら作句してると思います。 このことについて特に話を聞いたり話し合った記憶もなく、上記のことは全く私の独善です。邪道かもしれません。ご批判も多いと思いますのでご意見を承りたいと思いますし、いろいろな手法をご披露していただければありがたく思います。 以上のように川柳は約束事の少ない短詩型文芸です。始めた頃は17音を短いと感じるかも知れませんが、説明の言葉を避け、思いを内に込めれば思いの外長いものです。川柳の自由さを大いに活用して自己表現を図っていきたいものです。 以上未熟な私の川柳観を少し述べてみましたが、これからも気のついたこと、知ったことを加筆訂正していきたいと考えています。ご意見等いただければありがたく思います。 川柳連れ連れ草に参加される方に 川柳観でも書きましたように、一般に川柳と言えば風刺、滑稽味を主体にした伝統的川柳と思ってみえる方がほとんどだと思います。そして、この川柳連れ連れ草に投稿しようとされる人もそのように思ってみえると思います。しかし、私はこの場をそのような伝統的な句の場所にはしたくありません。 参加者の多くの方がここの句を理解され、投句されていればさして問題はありませんが、現在の所、ここではじめて川柳を始められた方が多くなっています。これは非常に嬉しいことですが、また難しい問題を含んでいます。始めての方の句をそのまま掲載した場合、参加される方はそれで良いと思い、読者の方はこの川柳連れ連れ草はそうした傾向の場と思われる恐れがあります。その恐れをなくすためには、初心の方の句はある程度の期間、添削した句を載せざるを得ないと考えます。決して私の型にはめようと思っているわけではなく、ただ受け入れられない部分があると言うことです。不満に思われる方もあるかと思いますが、参加準備期間と考えていただいて、ご理解をお願いしたいと思います。また、8〜10句を送っていただいて、その中から5句を選ばせていただけるとありがたく思います。 トップページにも書いていますが ●従来の川柳観を捨てる、忘れる。 ●「自分の想い」を「口語」で「575の17音」で書く。 これだけを思って作句してください。 メールで投稿していただきながら、ホームページで発表するという全く新しい手法ですので、いろいろ戸惑いもありますが、試行錯誤しながらより良いものになるように進めていきますのでご協力をお願いします。 (初稿 平成14年3月13日) (最終稿 平成15年5月29日) |