(第1集)


 英人作品の整理を終えたので、続いて妻・幸智子の
「ちたの風」に掲載された句を整理して掲載していきます
                (平成16年10月16日)


No 掲載月
751 夫の顔を色鉛筆で塗りかえる 199101
752 赤鉛筆でいっぱい書いた置き手紙 199101
753 人の弱さを気づかず峠まで 199101
754 峠に来て初めて帽子脱ぐ男 199101
755 砂の家 約束はまた反故にされ 199101
756 冬の月 鳩もさよならして去れり 199101
757 壊れかけた案山子いたずらっぽく笑う 199101
758 父も母もゆっくり渡る交差点 199102
759 ぼた雪に返した傘をまた借りる 199102
760 紙風船は中央分離帯に座す 199102
761 中央に花 誰も気づかぬバースデー 199102
762 お国言葉がこぼれ出す中央線 199102
763 よく笑う人のまわりでまた笑い 199102
764 縄跳びを前向きに跳ぶ三が日 199102
765 渡り終えた交差点は黄信号 199102
766 結局は元の場所へと戻る犬 199103
767 以心伝心 淋しいときに来る電話 199103
768 生きている証の一行日記です 199103
769 覗かれて交換日記生き返り 199103
770 くり返し見ることもない日記帳 199103
771 覗けるだけ覗いてしまった深い井戸 199103
772 これ以上後ずさりする余裕なし 199103
773 ジャンプして次の方向考える 199104
774 偽りがいっぱい書いてある看板 199104
775 塗りたてのベンチに止まる紋白蝶 199104
No 掲載月
776 知らぬ間に塗りかえられた長い塀 199104
777 塗りつぶすだけでは済まぬライバルよ 199104
778 春の日をみんな掴んで友が逝き 199104
779 気が緩む秘密を口にしてからは 199104
780 乗り換えの駅に戸惑う顔がある 199104
781 順調な道にもあった水たまり 199106
782 水たまりひとりふたりと飛び越して 199106
783 本当に悲しいようになく子猫 199106
784 拾われて幸せなのか猫に問い 199106
785 猫たちに重ねる嘘はないだろう 199106
786 やがての日アジサイの青に負けぬよう 199106
787 交差点やがて別れるふたり連れ 199106
788 てのひらで踊らされるやじろべえ 199106
789 ばれそうな嘘が詰まっている金庫 199106
790 憎んでも憎みきれない姉・いもと 199106
791 倒れそうな樹へ友だちが集まって 199107
792 いいことがありそうジャンプ傘開く 199107
793 虹を見すぎて普通列車に乗り遅れ 199107
794 乗り越してしまって休む駅がない 199107
795 乗り換えの駅に宙ぶらりんの顔 199107
796 後ろから追うものがあり急がねば 199107
797 どの辺で止めにしようか糸電話 199107
798 積み過ぎた嘘はゆっくり葬ろう 199107
799 覗き合っているひとさまの深い穴 199108
800 友だちの友だちがセールスに来る 199108


No 掲載月
701 大好きな町へ戻っていく戦士 199006
702 ぶつかり合うことの大好きな交差点 199006
703 反乱や今から好きな色に塗る 199006
704 泳ぎ切る自由が好きな鯉のぼり 199006
705 アルバムの中にも悲しみがあるよ 199006
706 肩車 満足そうな親子連れ 199006
707 金魚つり逃げる金魚が好きになり 199007
708 かたつむり後ろに下がる難しさ 199007
709 墓の道アジサイ好きな父に逢い 199007
710 アジサイを摘んで友とさようなら 199007
711 無責任な男の背中推す十指 199007
712 空梅雨や責任のがれ寂しいね 199007
713 無責任な言葉散らばる交差点 199007
714 にんげんを恐れて通るカタツムリ 199007
715 昨日の人と今日もぶつかる交差点 199007
716 ほめ言葉どれも信じてみたいのだ 199007
717 負けて涙 勝って涙が交差する 199008
718 許可のない人から届く見舞状 199008
719 クーラーを嫌い夜空を眺めている 199008
720 クーラーをつけて熱めのお茶を飲む 199008
721 曇り空 日傘雨傘買い急ぎ 199008
722 善人にはやはりなれない空の下 199008
723 友だちを信じて空を飛んでゆく 199008
724 寂しいと人に言えない石地蔵 199008
725 ひとりいてこぼれる星が恐くなり 199008
No 掲載月
726 やむをえず虫を殺してシャワー浴び 199008
727 行き先が決まって軽いひざ頭 199009
728 八月十五日の団地の窓の開放的 199009
729 小麦の肌にっこり見せて旅の人 199009
730 逃げ道を捜す旅にも台風禍 199009
731 旅の終わりに記念撮影お静かに 199009
732 こぼれる程のお世辞をもらい帰宅する 199010
733 傘の中ふたつの足がもつれ合う 199010
734 余力あり町の本屋へひと走り 199010
735 力抜くことも忘れて歩いてきた 199010
736 力強い言葉を待っているわたし 199010
737 ときめきがうっすら見えた二人旅 199010
738 岩場にて恥じらいの手を出してみる 199010
739 しばらくは潮風に酔う旅の午後 199010
740 すすき・芒 父の背中で生きてきた 199011
741 いじわるをする子される子私の子 199011
742 こだわりがいくつもあって眠る辞書 199011
743 古い辞書 捨てきれぬまま春は過ぎ 199011
744 お互いに素直になれぬ月あかり 199011
745 やり残したことがあるよと月がいう 199011
746 月食に欠けていくのは私の心 199011
747 折り方を間違えながら折る兜 199011
748 躓くと誰もがみんな寄ってくる 199011
749 たき火だよ君もあなたも温かい目だ 199101
750 いっせいに春に向きを変え鳩が舞う 199101


No 掲載月
651 足並みが少し乱れて交差点 198904
652 楽譜見る頭だんだん重くなる 198904
653 なんとなく友達になる交差点 198904
654 ふたりして背負う桜が花をつけ 198904
655 他人のような顔して並ぶ交差点 198904
656 花の名を忘れて老母笑っている 198905
657 一日に何度も笑うガイド嬢 198905
658 笑いすぎてしわを気にするおばあさん 198905
659 遮断機が下りるあの子と仲たがい 198905
660 叛き疲れてこっそり眠る男たち 198905
661 笑っても笑わなくても日が暮れる 198905
662 笑いあう四月の門を風が抜け 198905
663 一日はピエロになって笑わせよう 198905
664 演奏会 切符はいつも二枚買う 198912
665 早く来いと切符が届く催促状 198912
666 アルバムに父と納まる搭乗券 198912
667 声の出ぬ父の握手は強かった 198912
668 父に似た菊人形が立っている 198912
669 玄関にまだ置いてある父の靴 198912
670 帰るべき家に帰った父は骨 198912
671 秋の夜長に父の背広が重くなり 198912
672 気に入った靴とうっかり水たまり 199001
673 三日目も下駄箱にある白い靴 199001
674 靴音を感じる距離にいるふたり 199001
675 冬景色 父はたばこを忘れてゆき 199002
No 掲載月
676 竿にまあおむつがずらり冬の景 199002
677 逆に見る景色世の中広く見え 199002
678 荒れた手と荒れた心をもてあそぶ 199002
679 喪の家にほどよい風が吹いてくる 199002
680 キャッチボール受け止め合える人がいる 199002
681 何事もないように生きている家族 199002
682 咳止まずとなりの人も咳をする 199002
683 皆去って異常に広い場所にいる 199004
684 明るい話がすぐに消え去る風の中 199004
685 善人は善人として立ち去れよ 199004
686 早春の朝はやさしい顔になる 199004
687 安心していると風は足元から流れ 199004
688 でこぼこの道に転がる哀愁歌 199004
689 窓は全開 明るい朝の訪問者 199004
690 眼鏡拭く少女が沈むのが分かる 199005
691 沈みそうな靴を追いかけて二十年 199005
692 思った通りに沈みかけた笹の舟 199005
693 弱いところを見事に突いてくる恩師 199005
694 余分な血 売りに行きます献血車 199005
695 自分で選んだ独楽が坂を転げ落ち 199005
696 あなたとは少しは違う三文判 199005
697 葉ざくらや母に便りを書こうかな 199006
698 病弱な母に寄り添う乳母車 199006
699 路上には年齢制限ばかりあり 199006
700 戦後生まれを自慢できない年になり 199006


No 掲載月
601 落雷や耳栓がいる蚊帳がいる 198809
602 いつまでも赤信号でないよ 君 198809
603 一片の氷が溶けるまでの夢 198810
604 夢のある話でふくらむ青い風船 198810
605 夢は夢紙だけ残る丸い卓 198810
606 夢の中私だけが笑っている 198810
607 はにかんでえくぼを見せる少女かな 198810
608 確実に歩いた道も秋になり 198810
609 夢のある国が絵本の中にある 198810
610 昨日と変わりなく父さんを呼ぶ娘 198811
611 呼びかける言葉 一瞬見失い 198811
612 呼び止めるまもなく閉まる自動ドアー 198811
613 水たまり跳び越せるまで跳ぶまでさ 198811
614 傍らにいる人が遠くへ石を投げ 198811
615 約束が毎回消えて散る紅葉 198811
616 記念日がいくつもあって紅葉見に 198811
617 転ぶぞと分かっていても見ておりぬ 198811
618 靴下の破れる位置も同じなり 198811
619 投げ捨てた指輪が光る泥の中 198811
620 立冬を告げゆく鳥はひとりぼち 198812
621 立冬の朝も明るい声かかり 198812
622 立冬や針持つ指が太くなる 198812
623 ポンポンと音する誰か怒っている 198812
624 ポケットに手をつっこんで何がある 198812
625 手に余る柿をもらってくださいな 198812
No 掲載月
626 柿の種どこへ投げても罪になる 198812
627 先へ先へと急ぎたがる少年の靴 198812
628 弾けるような笑いの中で埋もれる 198812
629 淋しいね 淋しいねえと散る銀杏 198812
630 来年の顔がべたべた貼ってある 198901
631 来年は石蹴りうまくなりそうで 198901
632 来年を迎える靴が並べられ 198901
633 思いっきり手足を伸ばす自由がある 198901
634 怒られたような口調が好きになり 198901
635 共通の話題が消えた交差点 198901
636 日当たりを選んで歩く靴ばかり 198901
637 苦手な人がまっすぐ階段下りてくる 198901
638 ルビーもまた生きる重みを知っていた 198902
639 ルビーより勝る八重歯がにょきと出る 198902
640 ブランコを降りる勇気がある朝だ 198902
641 一人言多くなったと風が鳴る 198902
642 農道を歩く破れた靴ふたつ 198902
643 春よ春 メダカの列は美しい 198903
644 いつの日も笑える椅子が置いてある 198903
645 暗がりの顔にあいさつして通る 198903
646 少しずつ歯形が変わる朝の卓 198903
647 よく見ると隣の窓もくしゃみして 198903
648 ロマンチックな夜はさっさと逃げてゆく 198904
649 なつかしい海よロマンは忘れたり 198904
650 いつもスナックの隅にいるロマン派 198904


No 掲載月
551 身代わりのあなたも男にはなれず 198712
552 許されること多くなり寂しくなる 198712
553 寒い寒いと深い眠りにつく人形 198801
554 深いところで許し合っている親子 198801
555 手をあげてしまった後の甘納豆 198801
556 師走なり禁酒の札が貼ってある 198801
557 君も私も所詮別れの交差点 198801
558 初雪や吸い殻拾う人もいる 198801
559 童謡が聞こえる部屋をふりかえる 198802
560 果たせない約束ばかり交わす部屋 198802
561 行きつく先は漫画の本で埋もれた部屋 198802
562 こぼれ陽や丈夫な足をありがとう 198802
563 風が飛ぶ雪のないのは寂しいね 198802
564 一日歩いて遅々と進まぬ万歩計 198802
565 竹とんぼ父を離れてゆうらゆら 198802
566 かばい合う姉妹の肩が揺れている 198802
567 振り返ってみるものはなし玉子焼く 198805
568 遠花火わたし所詮は見物人 198805
569 ありがたいことに毎日空が見え 198805
570 指切りの指が素直に出てこない 198805
571 あら平和 離婚話をおもしろがり 198805
572 転びそうなときはゆっくり転んでみる 198805
573 茶碗割る妻の名前は忘れたよ 198805
574 いたわりの目を向けられるレンゲ摘み 198805
575 一日歩いて胸とどろかすものはなし 198806
No 掲載月
576 胸深く沈めるものの多い夏 198806
577 胸深く妻は叛いて眉を描く 198806
578 電車着く椅子取りゲーム始まるよ 198806
579 PTAと言えば夫はすぐ許し 198806
580 何もかもこぼれてしまうてのひらよ 198806
581 頭垂れ素直に仏待つおんな 198806
582 待つことしかできぬ駅に今日もたつ 198806
583 メモ残す気持ちはいつもあるのだが 198807
584 メモのあるテーブル母の匂いする 198807
585 広告をメモ用紙に変えるおばあさん 198807
586 美しいままで終われぬ花しょうぶ 198807
587 やさしさの固まりがあるしょうぶ園 198807
588 ふとどきな客がチャイムを押してくる 198807
589 否定する理由もなくて署名する 198807
590 確実に一日が暮れていく匂い 198807
591 美しい女が桃にかぶりつき 199808
592 桃の木や桃を盗んだ日もあった 199808
593 絵の中の桃はピンクに染まりおり 199808
594 ふんぎれぬ背中をとんと押すこぶし 199808
595 ものわかりのいい母の演技は落第か 199808
596 指定席ばかりで座る椅子がない 199808
597 雲が這う踏みつぶしたくなる草履 199808
598 山頂や偏差値なんか吹き飛ばせ 198809
599 山下りる母にみやげを買おうかな 198809
600 楢山へ持っていきたいものがある 198809


No 掲載月
501 母はまだ軽い財布を持ち歩く 198706
502 財布にはきれいな写真入れておく 198706
503 こんなにも明るい部屋で飯を食う 198706
504 雨の日はひとり笑いが多くなる 198706
505 ころがした毬は無口で池に落ち 198706
506 出勤の波に流され子を忘れ 198706
507 通り過ぎた駅に戻りたがる老犬 198707
508 通りすがりの人に会釈をもらった朝 198707
509 通り雨 傘一本が差し出せぬ 198707
510 折り返し点で辛抱強く待つ夫 198707
511 失ったものがだんだん見え始め 198707
512 通りまで誘って歩く夫婦傘 198707
513 偶然の一致で塗ったみどり色 198708
514 塗りかえた画布にすでに青春はなく 198708
515 大きな子と小さな塗り絵塗りつぶす 198708
516 魚の目いつもわたしを睨みつけ 198708
517 悩み続けてバラのとげ丸くなる 198708
518 見た目には明るい家庭 電話鳴る 198708
519 病院の屋上乾いた風が吹く 198708
520 根の枯れる音する八月十五日 198709
521 堅実に生きて根っこにつまづきぬ 198709
522 いいようのない寂しさで根が枯れる 198709
523 富士山頂からやさしい電話ありがとう 198709
524 電話鳴る午後は雨だと思うなり 198709
525 墓の下で父だけ笑う盆供養 198709
No 掲載月
526 一日を病んで短い蝉の声 198709
527 炎昼のブランコ二つに割れて揺れ 198709
528 情けに弱い人の後ろで風邪をひく 198709
529 ドレミファのいらぬ草笛気を許す 198709
530 乗り越した人がもひとりいて笑う 198710
531 バスに乗る父の細腕確かめて 198710
532 鈍行に乗って父と娘は寡黙なり 198710
533 帰るはずの人を待ってる午前二時 198710
534 顔色が悪いねとトンボさらっという 198710
535 わざと視線そらす負けた日悔しい日 198710
536 伸びやかにあくびする人若いなぁ 198710
537 走ってきた道がときどきかすんで見え 198711
538 今のうちに走っておこう萩の道 198711
539 はがき一枚走らせ秋の恋終わる 198711
540 隣にいる人が遠のく茶碗落つ 198711
541 ふるさとへ走る列車を見送りぬ 198711
542 十月をひたすら走る競走馬 198711
543 十五夜をひとりで見てる芒の穂 198711
544 一日を走ってこだわり遠くなり 198711
545 笑いすぎて前歯が光るおばあさん 198712
546 月光仮面を待って少年父になり 198712
547 光あるうちに畑を耕そう 198712
548 受験とや母も教師も吠えている 198712
549 階段を転がる毬でよかったね 198712
550 大人になったねと銀杏の木光る 198712


No 掲載月
451 声変わり心変わりは海で聞く 198608
452 銭かぞえ福祉社会を考える 198608
453 涼風や若者ひとり消しにけり 198609
454 涼しい顔でうわさの中を通り抜け 198609
455 涼しげに素うどん食べて夏終わり 198609
456 坂道を転がる勇気ある手鞠 198609
457 わたしはだあれ身分証明書いらぬ村 198609
458 背伸びして父の足跡追わんかな 198610
459 背伸びするわたし きりんも首伸ばす 198610
460 背中ばかり見てきた妻のひとりごと 198610
461 思い出を一個削って二個作り 198610
462 背伸びするすこうし伸びた小柄な背 198610
463 友の背を押すには弱い薬指 198610
464 背後には笑う手鞠があるんだよ 198610
465 正当な理由はないが殴りたい 198612
466 正妻の椅子が近頃そっぽ向く 198612
467 電車から降りて姿勢を正す人 198612
468 そして駅 迷い心で汽車に乗る 198612
469 うさぎとび君の苦しみもらいます 198612
470 柿の葉も落ちて心も寒くなり 198612
471 柿の種をやたら遠くへ投げる人 198612
472 知られては困る現在位置は雨 198701
473 雪野原 罪のひとつやふたつある 198701
474 旅人よ風が泣くのを知ってるかい 198701
475 訳もなく不幸な穴を掘るふたり 198701
No 掲載月
476 同じ地図見つめていてもまだ他人 198702
477 歩き続けておんなは女の地図を描く 198702
478 地図持たぬ妻は隣でよく眠り 198702
479 水割りの苦い話が好きになる 198702
480 こだわりを捨てたところに土筆出る 198702
481 春の小川で地図を描いているめだか達 198702
482 共通の話題で埋まる地図がある 198702
483 天国も地獄も嫌いここで生き 198704
484 天に凧 自由に泳ぐのが得意 198704
485 タンポポが天向くわたしは下を向く 198704
486 手をつなぐ仲間が増えるれんげ草 198704
487 葬列の列を乱した春の蛇 198704
488 バス降りる春の匂いがつんとくる 198704
489 一人死んで泣くのを忘れた白あじさい 198705
490 泣き声は昔々に忘れたよ 198705
491 ときどきは女になって泣いてみる 198705
492 染まらない強さがあった白あじさい 198705
493 白髪を数える勇気などないよ 198705
494 白い靴 今から恋をしようかな 198705
495 追いかけるものがいつしか減っている 198705
496 こんにちは敵にも見せる片えくぼ 198705
497 おとなりもそのお隣も人待ち顔 198705
498 人間がにんげんに還る朝の庭 198706
499 人間であってよかったとハエ叩く 198706
500 あじさいも人も寡黙な午後の雨 198706


No 掲載月
401 躓くにはあまりに小さい石だった 198512
402 叱らない顔して叱る観音像 198512
403 急ぎすぎて行く手さえぎる警報機 198512
404 にんげんの顔してにらむ吊し柿 198601
405 終生をあなたに託す樹もあろう 198601
406 吹きだまるところはいつも同じ場所 198601
407 笑いたいときに笑えぬわがホクロ 198601
408 名をなくてもモグラと共に冬ごもり 198601
409 放映終了わたしの春も消えていた 198601
410 終電車を見送るまでは泣かないぞ 198601
411 まつりが終わりねぐらを捜す長い影 198601
412 剥製の亀に乗ったが太郎になれず 198602
413 手が鳴ると亀の二匹は甲羅の中 198602
414 気の弱い亀に子供は群れたがる 198602
415 弱いところへうっぷん晴らしに行く小猿 198602
416 夫婦して降りるべき駅見失う 198602
417 悲しい顔をされてしまった雪だるま 198602
418 冬の海わざわざ見に行く受験生 198602
419 よく聞けば他人が鳴らす靴の音 198602
420 さくらさくら春の空気はいたずらで 198604
421 心に穴が空いて空気が洩れてくる 198604
422 渇いた心で乾いた空気吸う夫婦 198604
423 にんげんを信じて梯子を昇りつめ 198604
424 生きるには約束いくつすればいい 198604
425 出逢い橋出逢った苦しみもあるよ 198604
No 掲載月
426 いくじのない爪を一日切っている 198604
427 許される日を待つ古い日記帳 198604
428 賢母になれず化粧品を売り歩く 198605
429 化粧する弱い心を見つめよう 198605
430 紅を引くたびに白髪を見てしまう 198605
431 のんびりと同じ空気を吸う他人 198605
432 歯の欠ける音がする懺悔急がねば 198605
433 入院したと愉快そうな手紙が来る 198605
434 失言を取り消す夫への手紙 198605
435 戻り道転んだ石がよく見える 198605
436 友の背をこずく十指など要らぬ 198605
437 境界を越えて折り鶴地に落ちる 198606
438 垣根越え子猫を追うのも自分史よ 198606
439 越えようと思って越えた橋ではない 198606
440 飛び越せば仲間になれる水たまり 198606
441 弱い子を弱い籠へと放りこむ 198606
442 まじめな男にまじめな顔で見つめられ 198606
443 旅人よ別れる笠は重たすぎ 198606
444 流される女と笹舟見ておりぬ 198606
445 雨水が染みて夫婦のもろい傘 198608
446 雨に染み雨の匂いが好きになり 198608
447 目に染みるものは愛しき朝の風景 198608
448 幸せな人がよく飲む鎮痛剤 198608
449 ずぶ濡れを楽しむ顔がそこにある 198608
450 投げつけた小石大きな音を立て 198608


No 掲載月
351 叱られた子供がしょうぶ買ってくる 198506
352 花しょうぶ母と歩いたのは昔日 198506
353 無邪気さを捜そう菖蒲園をかける 198506
354 咳が出る咳の数だけ鶴を折る 198506
355 本音までポトリとこぼす軽い咳 198506
356 野良猫を笑う男もひとりなり 198506
357 今もなお目先のリンゴ買いたがる 198506
358 一握りの米をながめて田に入る 198506
359 完全に乱れた列の後にいる 198507
360 列乱す大人の下にいる子供 198507
361 獲物見てさっとくずれる蟻の列 198507
362 疑ってみてもあじさい見事咲く 198507
363 北の部屋アジサイ一輪さしてある 198507
364 人並みの幸せアジサイ青く咲く 198507
365 わが屋根の下から洩れる夏の唄 198507
366 エプロンをつけてネアカの母となる 198507
367 梅雨空やいまから似合う赤い傘 198507
368 うわさ話を黙って聞いてる小さな目 198507
369 いらだって風鈴と眠る夏の午後 198508
370 にんげんとなるため朝の薄化粧 198508
371 裏路地を逃げ道としたのもあなた 198508
372 今も昔も路地裏に住むちちとはは 198508
373 路地抜けて広い田んぼで嫁となる 198508
374 製氷器こわれ風鈴鳴らしている 198508
375 交代にアイスキャンデーなめた姉妹 198508
No 掲載月
376 通り過ぎた駅をさすらうボールペン 198508
377 悪評に耐え抜く鳩も一羽二羽 198508
378 四人来てひとりになったもやの中 198509
379 簡単につかみ取ったが雲は雲 198509
380 残暑なりいつまで眠る墓の父 198509
381 猛暑過ぎぴたりと止まる防水車 198509
382 暑い日は子供にまかす庭掃除 198509
383 傷ついたトンボが鼻の先で舞い 198509
384 舟唄に酔うほど人が好きになり 198509
385 弱い子が下駄を走らす夏太鼓 198509
386 今日は今日雨のガラスを拭いている 198510
387 今月も無駄な言葉が多く逃げ 198510
388 実直に生きて今夜も月を見る 198510
389 野の仏やたら似てくる父の貌 198510
390 妹の背なにもあった青い鳥 198510
391 言い訳をしつつ祭りを見に急ぐ 198510
392 祭り来る卓についたらひとり欠け 198510
393 獅子舞にすくんだ足も無事に立ち 198510
394 信頼の白い歯こぼれ萩こぼれ 198510
395 庭にカリン言いたいことが詰まっている 198510
396 鉛筆でバカと書いては疲れおり 198512
397 告白の鉛筆だんだん薄くなり 198512
398 騙す字を書く鉛筆が憎くなり 198512
399 胃薬を飲んで飲み干す胃の痛み 198512
400 咳き込んでどの真実を吐こうかな 198512


No 掲載月
301 待つことに慣れてしまった鳩時計 198408
302 結果待つクチナシの花見つめおり 198408
303 捨て猫の帰る道のり思うなり 198408
304 他人ばかりでひとり岬に立っている 198409
305 遠出した岬の家で拒食症 198409
306 おみくじを幾本結ぶ岬に来て 198409
307 送り火よ亡父はまじめに帰ったかな 198409
308 反抗する娘に雷鳴は向きたがり 198409
309 病室を出てススキの秋を知る 198410
310 息止まるまで刺しましょう注射針 198410
311 自信過剰の虫で大きく大きく鳴く 198410
312 学校に点取り虫がいなくなる日 198410
313 真夜中に虫が鳴く帰らぬ人がいる 198410
314 満月や吉報つかめぬ椅子二つ 198411
315 語り合う友が来て傘一気に開く 198411
316 目に写るものみな黄色 他人ばかり 198411
317 澄んだ目で誕生を問う初潮くる 198411
318 熟し柿誰も見ていぬ無人駅 198411
319 小雨降る屋根もわたしも洗われる 198501
320 屋根の鳩妻の顔見て飛びされり 198501
321 紙風船屋根に上がったままにあり 198501
322 すでにもうわたしを求めぬ求人欄 198501
323 子は足を母は胸を病む冬の天 198501
324 血縁の別れを知らぬ樹がぼやく 198501
325 友情もしだいに枯れる冬の池 198501
No 掲載月
326 雪降るや白紙のままの年賀状 198502
327 残雪やわたしの印つけておく 198502
328 跳びはねる勇気はあるが雪うさぎ 198502
329 みそ汁を飲み合う朝の顔がある 198502
330 いつ見ても郵便受けは空である 198502
331 待たれる日になかなか来ない郵便夫 198502
332 ふと死者に逢える気がする冬の天 198502
333 傷ひとつ雪降る夜が好きになる 198502
334 一問を解く一問で暮れた夜 198503
335 夜になって迷いはじめた凧の糸 198503
336 長い夜リンゴの皮も伸びてくる 198503
337 反抗期ことさら暗い帽子買う 198503
338 樹を育て子供を育て朽ちんかな 198503
339 夜が明けて嫌いな人が好きになる 198503
340 春の野で春のラジオと眠り込む 198504
341 父からの中古のラジオ捨てきれず 198504
342 朝の田にわたしを裁くラジオ鳴る 198504
343 野の花に軽い口づけ盗まれる 198504
344 旅立ちを戸惑うばかり沈丁花 198504
345 ふるさとが遠くふるさとの唄うたう 198504
346 休みたいときもあって止まる時計 198504
347 失われた言葉をさがす辞書の中 198504
348 留守宅を平気でとばす回覧板 198506
349 午後は雨訪ねる家は留守ばかり 198506
350 魚屋が留守でさかなは干上がれり 198506


No 掲載月
251 幸せに溺れて少女手を離す 198308
252 現実の戻ると朽ちたけしの花 198308
253 芋畑風鈴といる母といる 198309
254 悲しいときに風鈴さげてくるのは友 198309
255 ボタン押さねば止まらない町のバス 198309
256 独楽止まる知恵袋から何も出ぬ 198309
257 銃口の前にするりと降りる鳩 198309
258 青田にも嫁がつまずく石がある 198309
259 放そうかまだ放せない命綱 198310
260 泣くときは三度と決めた杉木立 198310
261 手術する母とないているキリギリス 198310
262 待つ人を運んでくれぬ夜鳴きそば 198310
263 ダム底に財布を捨てて無になれる 198310
264 座禅組んでも無心になれぬセミの声 198310
265 窓口に花なく人のいない医院 198310
266 少年と少女を裂いた遠い虹 198311
267 虹の出そうな窓を見つめてベッドにいる 198311
268 老眼鏡で虹を捜している夫婦 198311
269 年寄りの猫は道路で昼寝する 198311
270 寂しがり屋の人が待ってる交差点 198311
271 愚かなりてうしろ姿を盗まれる 198312
272 盗人の小さな手には柿一個 198312
273 孫の手を盗む老婆に孫はなし 198312
274 死者に来るハガキきらきらしゃべり出す 198312
275 ハガキ着くのが遅れ別れた二人 198312
No 掲載月
276 配達のされぬハガキを待っている 198312
277 みなし児にも親はあったと秋の風 198312
278 もう一度子に聞かせたい子守歌 198312
279 父母がいてただそれだけを願う少女 198401
280 幾枚の絵を連ねても逃げる願い 198401
281 閉ざされた口もいつかは開くだろう 198401
282 退屈な川は私を流しはせぬ 198401
283 なみなみと鮮血採られ人恋し 198401
284 約束の橋まで行けぬ赤い傘 198403
285 ふり向いてまたふり向いて渡る橋 198403
286 丸木橋渡れば汚名消えるだろう 198403
287 向かい風老いたる父を通せんぼ 198403
288 雪踏んで手術台へと娘は急ぐ 198403
289 引き潮を追いかけている父の死後 198404
290 嫌われて線引きをする道路工 198404
291 過去を引きゆっくり歩む盲導犬 198404
292 春の風 捨てた悲しみ運んでくる 198404
293 引き立て役もときには淡い恋をする 198404
294 行き先の迷いなどない白い杖 198407
295 親離れ蛍追うのはもう止めた 198407
296 手のひらの蛍逃がした学期末 198407
297 蛍消えて積木くずしが始まりぬ 198407
298 本当は泣きつくしたい紋黄蝶 198407
299 退屈なコマーシャルです蝶は外を飛ぶ 198407
300 善人をわたくしを待つ献血車 198408


No 掲載月
201 墓の下で踏みつけられたこぼれ花 198211
202 数珠下げて萩零れるを見て下りぬ 198211
203 死にたくはないと答える柿ばかり 198211
204 坂落ちて答えはまだ出ぬ赤だるま 198211
205 返答に困る小さな目が動く 198211
206 山に来てむこうの山が気にかかる 198212
207 山脈の怖さを知るか案山子立つ 198212
208 山脈に飽きて横向く父の墓 198212
209 なんと寂しい女がひとり住む鏡 198212
210 寂しくて花の位置まで見失う 198212
211 語り合う友なき夜のオルゴール 198212
212 銀杏散る誤解いまだに解けぬのに 198212
213 何事もなかったような朝がくる 198301
214 不自然な死に方をする冬の蝿 198301
215 口笛の出ぬくちびるで別れたり 198301
216 樹齢百年わたしの罪も見てきたな 198301
217 どこまでもあなたに続く細い径 198301
218 そしてまた騙して生きる靴がふえ 198301
219 貧しき人がどっと溢れる十二月 198301
220 父と駆けた石ころ未知の菊も枯れ 198302
221 手をつなぐ道ひとつずつ消えました 198302
222 道草を楽しむ余裕ありて春 198302
223 一進一退どこまで登るかたつむり 198302
224 進もうとあせる夜道は暗すぎる 198302
225 バス停を通過していくバス二台 198302
No 掲載月
226 五キロ走 独楽は倒れるまで廻る 198302
227 冬の父 灯油を買いに出たままで 198303
228 すたすたと軒並み走る灯油売り 198303
229 頭痛する灯油の芯が伸びてくる 198303
230 うそぶくと電話がリンリンリンと鳴る 198303
231 最後には必ず降りる父を待つ 198304
232 優先席先に座ってまわりを見る 198304
233 昨日より一人に慣れたバスを待つ 198304
234 れんげ畑で土に染まっているわたし 198304
235 夕焼けを染めて帰った子供連れ 198304
236 春の野で黄色く染まる紋白蝶 198304
237 悲願成就 母の読経はえんえんと 198304
238 父の日記は父の畑に埋めましょう 198306
239 地にもぐる蟻の行方は知らぬまま 198306
240 地に還り熟睡してる父の骨 198306
241 ふたり父いて幸せな鍋の底 198306
242 箸持てば飯粒こぼす父である 198306
243 力走の果てに疲れた父の靴 198306
244 ぶつかり合う二つの独楽を見ておりぬ 198306
245 生き恥をそっくり覗く双眼鏡 198307
246 薬包紙わたしひとりをいじめ抜く 198307
247 包み紙ほどけて見える赤い舌 198307
248 包装紙またまた増える罪の数 198307
249 手をあげる 積み木一瞬にしてくずれ 198308
250 鬼は手を打ち鬼の方に行く子供 198308


No 掲載月
151 美しい虹は過去まで問いはせぬ 198111
152 いつかきた道はそのまま秋となる 198111
153 激しさを道の向こうに落として秋 198111
154 逃げ道を捜すばかりのカラスの子 198111
155 逢えばまた迷いが残る石畳 198111
156 悲しみの川の底から虹が出る 198111
157 追い越せぬ父の樹にきて絵筆とる 198111
158 歩き疲れてガラスの中にいる人形 198201
159 失敗をのぞいて笑うガラス窓 198201
160 ため息の洩れるガラスを磨き抜く 198201
161 糸切って雪の町まで逃げた凧 198201
162 雪が降る父の椅子にも雪が降る 198201
163 雪の景知らずに育つ観葉樹 198201
164 束縛を嫌いイワシは網を逃げ 198204
165 魚つる勤務評定気にはせぬ 198204
166 魚屋の魚は疲れて横倒れ 198204
167 枯葉浮く親のいない子この葉に止まれ 198204
168 だまし舟だまされたまま池に浮く 198204
169 池に浮く笹舟が揺れ父が揺れ 198204
170 合掌する母の本音を聞き取れぬ 198204
171 似顔絵を飾る勇気がありません 198205
172 桟橋で還らぬ父の絵を破る 198205
173 絵に描けば腐ってしまうなすの花 198205
174 強すぎるライトに枝も折れるだろう 198205
175 父と2人で堅い枝豆ばかり食べ 198205
No 掲載月
176 枝から枝へ自由に飛べる鳥もいる 198205
177 大鏡他人ばかりをよく写す 198206
178 うち沈む鯉は大河に流される 198206
179 広大な農地受け継ぐ昼行灯 198206
180 不器用で三日遅れのプレゼント 198206
181 ふるさとの母に贈った老眼鏡 198206
182 品行方正な男に贈る絶縁状 198206
183 五月雨やいつ頃終わる物語 198206
184 かたぐるま昔の父を想うなり 198207
185 肩こりの前方を縫う木綿針 198207
186 肩たたき小さな骨が手に当たる 198207
187 雨の日はだあれも来ない傘売り場 198207
188 今日の雨明日の雨で替わる傘 198207
189 華やかな傘はいつまで売れ残る 198207
190 山水画記憶の糸が切れかかる 198210
191 風景に溶け込め切れぬサングラス 198210
192 ボート漕ぐ一件平和そうな二人 198210
193 野良仕事ケーキの数にだまされる 198210
194 死ぬまではケーキをうまいうまいと喰う 198210
195 父の居ぬ椅子にもケーキ皿置かれ 198210
196 風が揺れ離婚話が消えました 198210
197 手のひらにぶどうをのせる亡父をのせる 198210
198 歓声の順に大きくなるぶどう 198210
199 一房のぶどうあの人まだ癒えぬ 198210
200 男と女の子こぼれ話は聞かぬのも象 198211


No 掲載月
101 わが命噴水のごと跳びはねよ 198104
102 水流に押し流されていくいのち 198104
103 さらさらと解けぬ誤解の水を飲む 198104
104 不器用にハサミをならす雨が降る 198105
105 いつわりを許せず長い雨になる 198105
106 逝く人に春の長雨惜しみなく 198105
107 半切りのキャベツ別れた人思う 198105
108 思う人の歩幅が広く追いつけぬ 198105
109 夕暮れを思うと旅に出たくなる 198105
110 風船を飛ばし素直な子に戻る 198105
111 風船を追ったら路地のつきあたり 198105
112 風船を買っておのれを慰める 198105
113 片想いをのぞかれました魚の目 198106
114 一人住まいの皿は秋刀魚が一尾たり 198106
115 金魚鉢ぐるぐる回る命なり 198106
116 よく笑うボールペンから風便り 198106
117 なぞ解きはとてもかなわぬ子が笑い 198106
118 泣きぼくろ笑いすぎると落ちそうだ 198106
119 赤い灯が揺れてる町のなお遠く 198106
120 イチゴ皿真っ赤なうそがのせてあり 198106
121 赤い糸がんじがらめのやじろべい 198106
122 正直な子供をさらう夏の風 198107
123 自分の名も隠してしまうかくれんぼ 198107
124 ときとして他人の顔して飲む紅茶 198107
125 舞台裏に熱いコーヒー入れてある 198107
No 掲載月
126 舞台から見下ろす失礼な奴め 198107
127 喪の明けを舞台で明かす姫だるま 198107
128 六月の雨とさみしい別れがくる 198107
129 タバコの輪さみしい女をなびかせる 198107
130 さみしさの果ての錠剤買いに出る 198107
131 夏祭り乱れ太鼓になべ煮える 198108
132 夏の終わりにぽっかりはまる落とし穴 198108
133 夏半ば時計も狂う電話鳴る 198108
134 いすひとつ雨に打たれて夜が明ける 198108
135 雨雲に押しつぶされぬ地蔵たつ 198108
136 天気予報と反抗的な娘で雨 198108
137 髪なびく方へ消えゆく自己批判 198108
138 長髪を嫌う窓際族といす 198108
139 幸福を売った男の髪を切る 198108
140 寂しくて赤信号を渡りきる 198110
141 背信を見逃す信号青となる 198110
142 信号を渡れば風もやむでしょう 198110
143 大胆にブランコを漕ぐ夏は去り 198110
144 公園にブランコもない子もいない 198110
145 ブランコに乗ってはみたが見えぬ風 198110
146 薬指飾るものなく夫婦である 198110
147 指切りを黙ってみていた蛇の目傘 198110
148 指切りを三歩下がってバラは破り 198110
149 美人とは見えぬ鏡を持ち歩く 198111
150 美しい姉のげたの音つまづきぬ 198111


No 掲載月
51 バス停の淡い灯にゆれるうそ 198009
52 夕立に会い淡い情けと橋渡る 198009
53 草の道踏みわけ出ると明日に会う 198009
54 戦の火鎮めてひとり草を刈る 198009
55 せみとりの遠い昔は話せない 198010
56 遠花火に男のロマンも散ってゆく 198010
57 愛の鞭のせて列車は遠ざかる 198010
58 雨よりも辛い写真を胸に抱く 198010
59 偽りの写真を燃やす秋の空 198010
60 写真には恋の痛みも撮っておく 198010
61 そむいても嘘を嘘とはいわぬ萩 198011
62 哀しみとたたかっている秋の月 198011
63 来年のことなど知らぬ秋の雲 198011
64 意をみせずはしゃいだままに駅を過ぎ 198011
65 終着駅もの哀しげな脚が二本 198011
66 駅に立つ隣人の背が温かい朝 198011
67 奴だこ糸切る自由がまだある午後 198011
68 針の糸プツンと切れて父が臥し 198011
69 くもの糸もがけば奈落の底へ行く 198011
70 月見酒さびしい男を飲みつくす 198012
71 死を越えて月は二人に丸く照る 198012
72 枯れ野にはいつわりの月のぼります 198012
73 古里があるから死ねる鳩一羽 198012
74 ふるさとのザクロが割れて便りくる 198012
75 結び目がからみ合う日も凧はとぶ 198012
No 掲載月
76 花売りの声のかれる日花も枯れ 198101
77 餅をつく父の背中が大きく見え 198101
78 くしゃみする少し世間が騒がしい 198101
79 再会の肩に落ち葉が少し舞う 198101
80 ボールペン少しの嘘も消されない 198101
81 泣きぬれて素足にうける冬の波 198101
82 ふりむけば波がわたしを追いかける 198101
83 悲しみの波止場に白いカモメたち 198101
84 客のいない席にゆっくり幕が上がる 198102
85 客と逢う日の鎮痛剤は苦い 198102
86 哀しみの海へと客は往きたがり 198102
87 客を待つ夫婦にやがて陽が落ちる 198102
88 裏切りの小径に光り消えたまま 198102
89 全身に光を受けてさすらう猫 198102
90 人さらい雪の光りに死んでゆく 198102
91 ネオン街風は光りを消しまわる 198102
92 雪降る夜は地蔵の傘をかけにゆく 198103
93 降る雪を斜めにうけて癒す傷 198103
94 血縁の甘え許さぬ雪が降る 198103
95 帽子脱ぐ少女の髪がやわらかい 198103
96 墓までの陽ざしやわらか鳩がとぶ 198103
97 やわらかい冬の陽に負け泣きましょう 198103
98 苦しくて枯れ野を走る 地蔵と会う 198104
99 夕焼けに向かって走るただ走る 198104
100 もつれ毛をふりきり走る空は晴れ 198104


No 掲載月
1 朝食に寝ぼけまなこが席をしめ 198004
2 床に臥し階下の朝を忍びやり 198004
3 朝霧の彼方へ足が消えてゆく 198004
4 藤の作品つくって身をきる道楽の品 198004
5 夕暮れの山は化粧をしているよう 198004
6 臥す母に私もつくる玉子焼き 198004
7 泥でつくるおはぎ何色もみじの手 198004
8 夕焼けにみせた笑顔に逢いに行く 198004
9 粉雪の翻弄されて日が暮れる 198004
10 春風を老夫婦にも届けよう 198005
11 さよならと言えぬ私に春の雨 198005
12 春の風砂場の子らをさらってゆく 198005
13 春日和別れの涙がやわらかい 198005
14 終電車別れと出逢い乗せて去る 198005
15 鈍行で田舎訪ねる一人旅 198005
16 花びらを吹き飛ばそうよわがままと 198005
17 ばらの花裏を見せずに咲き誇る 198005
18 人混みをどんどん抜ける青い空 198006
19 水たまりの中から逃れられぬ五月の空 198006
20 空に舞う「黄色いハンカチ」誰の手に 198006
21 澄みきった空に逃げ出す昨日の嘘 198006
22 悲しみが多く空が濁っている 198006
23 スマートな女が坂道を登り 198006
24 スマートなママを書きましょう絵の中では 198006
25 スマ−トな小枝に浮かぶ父の顔 198006
No 掲載月
26 スマートに主婦のおしゃべりタイムとなり 198006
27 横断の老婆の手をとるスマートさ 198007
28 待合室母娘の手まり唄はずむ 198007
29 明日の風描きつつ待つ時刻表 198007
30 熱に負け雨に負けてる親子鳥 198007
31 主婦だから雨を眺めるゆとりあり 198007
32 雨の日はバツが打たれるカレンダー 198007
33 雨の庭緑がやさしく下駄を出す 198007
34 最後にはひとりで歩く道でした 198007
35 歩いてもなお届かない月の下 198007
36 扉から愉しい声がころげ落ち 198007
37 過去のことは扉の向こうに置いておき 198007
38 日曜日夫の時計は狂いがち 198008
39 梅雨空に時計のベルははずんでいる 198008
40 童謡に聞き入り時計は止まっている 198008
41 夜明けから時計と夢を追う女 198008
42 ふるさとを捨てた女が海を愛す 198008
43 ふりむけば海鳴り遠く呼んでいる 198008
44 白い朝一人っきりの海を見る 198008
45 ふりむくと菓子買う母が迫ってくる 198008
46 夏祭り遠い日想うあめの味 198008
47 夏休み北へ北へと地図を追う 198009
48 夏祭り母の浴衣に風よぎる 198009
49 叱る声に炎暑を走りセミと逢う 198009
50 夏の野に哀しい声が帰ってくる 198009


(初掲載:平成16年10月16日)


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