“明日は、娘が通う中学校の授業参観日。母親の私が「明日、学校へ授業を見に行くからね」と言うと、「恥ずかしいから、絶対来ないでよ」と娘は怒った。「大丈夫よ。誰のお母さんかは、どの子にも分からないから」私はそう答えた。プレッシャーを感じたのか、娘は夜遅くまで何度も教科書を見直していた。
翌日、娘は、教室に入ってきた私を見て驚いていたが、その後は落ち着いて授業に取り組んでいた。授業を終えて廊下に出てきた娘に向かって、私はこうささやいた。「堂々としてたじゃないの」「本当にお母さんが来るとは思わなかったなあ」「だって、幼い頃の夢がかなって先生になった娘が、どんな授業をしているのか見たかったのよ」”(1月9日付け中日新聞)
中日新聞のサンデー版「300文字小説」から、第26回「300文字小説賞」で、最優秀賞に選ばれた市川さん(男・67)の作品です。あっと驚くどんでん返し、最優秀賞が分かります。ボクは毎回読んでいるつもりだが、覚えていなかった。
さて授業参加だが、こういう親はいないだろうか。実際にあっても、何もおかしくない気がする。親の中に紛れ込むだけである。誰も知らない。迷惑をかける訳でもない。子どもの成長が気になるのは何も子どもの頃だけではない。子離れしていない、と言われるかも知れないが、まだ学校を卒業したばかりである。実際にあってもいい。いや、実際にあるかも知れない。こんな親ならユーモアもあり、いい娘さんに育っているはずだ。
市川さんは本当の学校の教師であった。そんな中で思いつかれたのであろう。「300文字小説」には3回目の投稿とある。羨ましい楽しみと思う。