2010/03/12(Fri) (第1252話) 春化粧 |
寺さん |
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“「なに?大きな声でもうー度言ってよ」「いや、いいんだ」「気になるわ。私に何か文句あるの?」七十二と六十七、老夫婦二人の食卓はテレビの音だけが華やいでいる。すると心を決めたように昌也さんが、はっきりと言った。 「化粧してもらいたい。化粧した方がきれいだ」??春美さんは耳を疑った。言われてみると三、四年前から家にいる日は化粧しなくなった。念入りに化粧するのはおしゃれして友達と出かけるなど「ここ一番」というときだけである。(中略) 「夫は男のうちに入らない」と笑う友達もいる。夫のために化粧していたのはついこないだのように思えるのに、と春美さんは反省した。その夜はふろ上がりに、夫の言葉を反すうしながら時間をかけ、パックやマッサージでお肌を手入れした。翌朝十五分早起きして、薄化粧する。鏡の中でにっこり笑うと気持ちよかった。おはようと夫にかける声が、なぜか柔らかい。「化粧した方がきれいだ。口紅の色も春らしい」などと、昌也さんはボソボソ感想をのべるのであった。”(2月24日付け中日新聞)
作家・西田さんの「妻と夫の定年塾」からです。まあこれもいろいろ考えさせられるテーマである。夫婦だから何も気を遣ったり、飾る必要はない、地のままであってこそ気楽に過ごせるし、気も休まる。家の中まで気を遣わねばならぬなら家庭など要らない、そんな言い方もあろう。しかし、夫婦は何年、何十年たとうとも生まれも育ちも違う赤の他人である。ある程度の気遣いは必要である。そして、問題となるのはこの程度の問題である。この程度が受け入れられるか受け入れられないか、それによって夫婦は大きく違ってくる。 この話は面白い、実にいい。言われた方も悪い気はしない、素直に反省できる。女性が化粧するのはなぜか?よく思われたいからであろう。ではまず誰に一番よく思われたいか?誰が一番大切か?素直に考えれば夫であろう。それでめでたしである。しかし、昌也さんはよく言われた。ボクはなかなか言い出せないだろう。 ボクは新聞を読んだとき、この「話・話」に使おうと思った記事は印を付けておく。その後に妻が新聞を読む。ボクが何に関心があるか、そんなことを思って新聞を読んでくれているだろうか。それとなく伝えているつもりだが・・・。
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