2009/05/20(Wed) (第1112話) 五月の風 |
寺さん |
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“「・・・貧しいから、何もあなたにあげることができません。せめて、この五月の風をあなたに贈ります。・・・」 若いころ、こんな意味の詩をどこかで目にしたような気がする。そんなあいまいなフレーズをこの季節になって今年も思い浮かべている。わが家の小さな小さな庭のハナミズキやヤマボウシの木々も新緑を鮮やかに増してきた。そんな木々の間をそよぐ薫風に身をまかせて、この詩のココロを想う。文庫本を手にロッキングチェアに埋もれる午後の一時、この上なく至福の時間。こんな満ち足りた穏やかな時間を得られることの幸せに感謝して、五月の風を全身で受け止める。 昨年の今ごろは、母に余命三ヵ月のがんの宣告を受けて、本一人に告知をしないまま、緩和ケアが功を奏することだけを願う毎日だった。季節の移ろいを感じることがないまま桜が散り、気が付いたら夏になっていた。その母の位牌や遺影、そして母の思い出の品々を集めて名付けた「母さんのメモリアルルーム」。その部屋の窓を大きく開けて、五月の風を誘い込む。 「母さん、さわやかな風ですよ。気持ちいいですか?」私から母に五月の風を贈ります。喜んでくれたでしょうか?”(5月9日付け中日新聞)
岐阜県各務原市の会社員・加藤さん(女・60)の投稿文です。ボクにも懐かしい詩です。この詩は、もう30年も40年も前に森光子が主演するテレビドラマ「天国の父ちゃんこんにちは」の中で朗読されたものです。詩は「貧しいから あなたに差し上げられるものといったら 五月の爽やかな風と 精一杯愛する心だけです でも、結婚してくれますか でも、結婚してくれますか」と言うものです。この詩と共に「こんちワ〜〜 パンツ屋で〜す」と言う元気な声が思い出されます。インターネットで調べてみると、この詩に思い出のある人の何と多いことか・・・・。ボクもこのドラマが放映されていた頃に結婚した。 森光子さんは、加藤さんの投稿が掲載された5月9日、89歳の誕生日に「放浪記」上演2000回を達成された。そして11日、政府は女優初の国民栄誉賞を贈ることを決定した。ただただ敬服の一言です。 加藤さんの文で
「母さんのメモリアルルーム」と名付けた部屋を設けられたことにも、一つに知恵を見た。著名人にはいろいろな記念館が作られる。その個人版みたいなものである。いろいろな人があるものだ。
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